Manuel Göttsching - E2-E4 (1984)
Manuel Göttsching『E2-E4』について
Manuel Göttschingの『E2-E4』は、1981年12月12日にベルリンで録音され、1984年にドイツのInteam GmbHからLPとして初めて世に出た作品だ。クラウトロックの重要人物として知られるGöttschingが、Ash Ra Tempelでの活動を経てソロ名義で残した代表作のひとつであり、電子音楽、ミニマル、アンビエントの文脈で長く語られてきた。ギターを中心にしながら、シーケンサーの反復を軸に進む構成で、ロックのバンド演奏とはかなり違う作りになっている。
録音から3年後のリリース
この作品の特徴は、録音と発売の時間差にもある。1981年12月12日に録音され、1984年にLP化された。Göttsching本人は、もともと移動中にウォークマンで聴くための私的なリラクゼーション用テープとして録ったものだったと語っている。編集やオーバーダビングをほとんど加えず、ほぼワンテイクでまとめ上げたという制作背景は、この音楽の流れの自然さにつながっている。録音後すぐに作品化されたわけではない点も含めて、少し特殊な位置にある。
リリースはKlaus Schulzeのレーベルにライセンスされた形で行われ、製造はINTEAM GmbH、流通はDeutsche Austrophonが担った。今回の1984年盤は、エンボス加工のあるジャケットが特徴で、別プレスとは異なりラベル面にLC 8978の表記がない。
タイトルの意味と構成
タイトルの「E2-E4」は、チェスの初手を示す表記として知られる一方、ギターの音域を連想させる言葉でもある。作品全体は約1時間、ひと続きの演奏として進み、LPでは複数のパート名に分けられている。たとえば「Quiet Nervousness」「Glorious Fight」といった区分があり、盤面の局面を思わせる見立てが入っている。
実際に聴くと、最初はシーケンスの反復が前面に出る。そこにギターのフレーズが少しずつ重なり、音の密度が変わっていく。大きな展開を次々に置くタイプではなく、同じ速度で進みながら、音色や重なり方の違いで場面を作る構成。長尺だが、単調さよりも細部の揺れが耳に残る。ギターの響きが前に出る瞬間もあれば、リズムの推進力が強く感じられる場面もある。
Ash Ra Tempelからソロ作へ
Manuel Göttschingは1952年生まれのベルリン出身で、若い頃から複数のポップ/ブルース系バンドで活動し、その後Ash Ra Tempelの中核を担った。Ash Ra Tempelはクラウトロック史の重要なバンドとして知られ、Göttschingはそのギタリストとして強い存在感を示してきた。ソロでは1976年の『New Age Of Earth』でひとりの名義による作品を出しており、『E2-E4』はその流れの先にある一枚でもある。
1980年代に入ると、Göttschingはソロ作品を自分のスタジオで制作し、他アーティストのためのプロデュースも手がけるようになる。そうした活動の中で見ても、『E2-E4』は、ギタリストとしての資質と、電子音楽的な構築感が強く結びついた作品として位置づけやすい。
その後の評価と影響
『E2-E4』は発表当初から大きな商業ヒットになったわけではないが、後年になって評価が広がった作品だ。ニューヨークのクラブ、Paradise Garageでラリー・レヴァンがプレイしたことが知られており、ダンスフロア文脈で再発見された面がある。さらに1989年にはイタリアのプロデューサー・ユニット、Sueño Latinoがこの作品のシーケンスをサンプリングしたトラックを発表し、クラブ・ミュージック側からの注目も強まった。
その意味で『E2-E4』は、クラウトロックの延長線上にありながら、のちのハウスやテクノにも接続される作品として扱われてきた。Klaus Schulze、Ash Ra Tempel、そして電子音楽のミニマルな流れと並べて語られることが多いが、中心にあるのはあくまでGöttsching自身のギターと反復の設計だ。作品単体で見ても、静かな始まりから一定のテンポで積み上がる構造がはっきりしている。
まとめ
1984年に初めてLP化された『E2-E4』は、録音時点では私的なテープに近い性格を持ちながら、結果としてManuel Göttschingの代表作になった一枚だ。クラウトロックのギタリストという顔だけでなく、反復と持続を扱う電子音楽家としての側面もよく見える。約1時間の流れを保ったまま、音の重なりと空気の変化だけで進む作りは、この作品ならではの聴きどころになっている。
トラックリスト
- A1 Ruhige Nervosität 13:00
- A2 Gemäßigter Aufbruch 10:00
- A3 ...Und Mittelspiel 7:00
- A4 Ansatz 1:00
- B1 Damen-Eleganza 5:00
- B2 Ehrenvoller Kampf 3:00
- B3 Hoheit Weicht (Nicht Ohne Schwung...) 9:00
- B4 ...Und Souveränität 3:00
- B5 Remis 3:00