Kid Creole & The Coconuts - Tropical Gangsters (1982)
Kid Creole & The Coconuts『Tropical Gangsters』
キッド・クレオール&ザ・ココナッツ(Kid Creole & The Coconuts)が1982年にZE Recordsから発表した通算3作目のアルバム『Tropical Gangsters』(北米・カナダ市場では『Wise Guy』と改題)。ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンド(Dr. Buzzard's Original Savannah Band)で一世を風靡した奇才オーガスト・ダーネル(August Darnell)が、カリビアン・ミュージックとファンク、ディスコ、ノー・ウェイヴを華麗に交差させ、世界的大ブレイクを果たした金字塔である。
制作背景・エピソード
前作の壮大な物語性を帯びたコンセプト作『Fresh Fruit in Foreign Places』を経て、ZEレコーズの創業者マイケル・ジルカらの強い後押しもあり、よりダイレクトにフロアを揺るがすダンサブルな方向性を意識して制作された。録音はニューヨークの名門Blank TapesおよびElectric Lady Studiosで行われた。
ダーネルは1930〜40年代の伝説的ジャズ・ショウマン、キャブ・キャロウェイ(Cab Calloway)にインスパイアされたズートスーツ姿のプレイボーイ「キッド・クレオール」のキャラクターを徹底。相棒コーティ・マンディ(Coati Mundi)の軽快なパーカッション/ヴィブラフォンや、華やかな女性コーラス/ダンス・トリオ「ザ・ココナッツ」の存在感を活かし、シニカルでユーモラスな演劇的ステージ・ショウをそのままレコードに封じ込めた。
時代の文脈とサウンドのハイブリッド性
1980年代初頭のニューヨークでは、パンク/ノー・ウェイヴの先鋭性とディスコ/ファンクの快楽主義が地下クラブで結びつき、「ミュータント・ディスコ」と呼ばれる新しい潮流が沸騰していた。その発信源であったZEレコーズにおいて、本作はアフロ・キューバン、サルサ、カリプソ、ソカといったトロピカル・リズムと、タイトなポスト・パンク/ファンク・グルーヴを極上のポップスへと昇華させた。
父親認知をめぐる皮肉な喜劇を陽気なカリプソ・ファンクに乗せた世界的ヒット曲「Annie, I'm Not Your Daddy」、自己陶酔を洒落たアーバン・ファンクに仕立てた「I'm A Wonderful Thing, Baby」、小気味よいラテン・ビートが炸裂する「Stool Pigeon」など、高度な音楽的技巧とポップな親しみやすさが奇跡的なバランスで同居している。
後世への影響
本作は全英アルバム・チャートで最高3位を記録し、11週連続でトップ10入りを果たすメガヒットを記録。「Annie, I'm Not Your Daddy」(全英2位)をはじめとする3曲もの全英トップ10シングルを輩出し、ヨーロッパ各地のチャートを席巻した。北米でも『Wise Guy』としてチャートインを果たし、バンドおよびZEレコーズ史上最大のヒット作となった。
ジャンルや人種の壁を軽やかに越境した無国籍なポップ・センスは、80年代ポップ・シーンの多様性を象徴するとともに、後年のアシッド・ジャズやトーキング・ヘッズ、そして現代のトロピカル・インディ・ポップにまで強い影響を与え続けている。
トラックリスト
- A1 Annie, I'm Not Your Daddy 6:26
- A2 I'm A Wonderful Thing, Baby 5:16
- A3 Imitation 4:12
- A4 I'm Corrupt 4:11
- B1 Loving You Made A Fool Out Of Me 4:48
- B2 Stool Pigeon 4:59
- B3 The Love We Have 5:12
- B4 No Fish Today 4:48