King Tubby - Presents The Roots Of Dub (1975)
King Tubby『Presents The Roots Of Dub』
1975年にジャマイカのTotal Sounds(TSL105)から出た『Presents The Roots Of Dub』は、キング・タビー(King Tubby)の名をダブの代名詞へと押し上げた歴史的マイルストーン。トップ・プロデューサーのバニー・リーと天才音響技師キング・タビーの黄金タッグにより制作され、ジ・アグロヴェイターズの強靭な演奏を土台に、コーネル・キャンベル、ジョニー・クラーク、リンヴァル・トンプソンらのルーツ・レゲエ曲を解体・再構築した傑作である。オリジナルLPは全12曲構成で、いずれも1975年のジャマイカのヒット曲が素材となっている。
制作背景・エピソード
素材となったのは、バニー・リーのもとで録音されたキラー・チューンのマルチトラック・テープ。コーネル・キャンベルの「Natty Dread in a Greenwich Farm」「Wherever I Lay My Hat」「The Sun」、ジョニー・クラークの「I Don't Want to Be a Rudeboy」「Close To Me」「Rock With Me Baby」、トミー・マクックとジ・アグロヴェイターズのインストゥルメンタルなどが選ばれた。
ミックスはキングストンのウォーターハウス地区にあるタビーの自宅スタジオで行われた。元電気技師のタビーが自らカスタマイズしたMCI 4トラック・コンソール、伝説のハイパス・フィルター(通称ビッグ・ノブ)、フィッシャー製スプリング・リバーブ、特製テープ・ディレイを駆使し、リアルタイムの即興演奏のようにフェーダーを操って仕上げられている。
時代の文脈とサウンド
1970年代半ばのジャマイカでは、バニー・リーとドラマーのカールトン・“サンタ”・デイヴィスが生み出した、オープン/クローズのハイハットが小気味よく疾走する「フライング・シンバル(Flying Cymbals)」ビートがダンスホールを席巻していた。本作は、それまでシングルB面の「ヴァージョン(カラオケ)」と見なされがちだったダブを、エンジニアを主役に据えた単独のLPアルバムという作品形態へと昇華させた初期の極めて重要な事例である。
地響きのようなロビー・シェイクスピアのヘヴィなベースと鋭利なスネアを核に、突如として空間を切り裂くテープ・エコー、奈落の底へと吸い込まれていくスプリング・リバーブ、そしてハイパス・フィルターによる高域のカットがスリリングな緊張感を生み出している。原曲のヴォーカルやホーンの断片が亡霊のように現れては消えるミニマルな音響彫刻は、「空間芸術としてのダブ」の最高到達点として絶賛された。
後世への影響
ミキシング・コンソールそのものをひとつの「楽器」として扱い、トラックの抜き差しや音響エフェクトによって楽曲を再構築する手法は、その後のリミックス文化やクラブ・ミュージックの概念そのものの源流となった。英国のポストパンク(ザ・ポップ・グループ、ザ・スリッツ、PiL)をはじめ、ブリストルのトリップホップ(マッシヴ・アタック)、ジャングル/ドラムンベース、ダブステップ、テクノに至るまで、20世紀後半以降のポピュラー音楽の音響空間設計に計り知れない影響を与え続けている。
評価
ジャマイカ本国ではTotal Soundsから、イギリスではClocktower等を通じて流通し、ダブという音楽の衝撃を世界中に知らしめた。「ダブを聴くなら絶対に外せない教科書的一枚」と評され、ジャマイカ音楽史上最も重要なマスターピースとして現在も不滅の評価を誇っている。
トラックリスト
- A1 Natty Dub
- A2 Dub Magnificent
- A3 A First Class Dub
- A4 The Stepping Dub
- A5 Rude Boy Dub
- A6 A Closer Dub
- B1 Roots Of Dub
- B2 Dub You Can Feel
- B3 Loving Dub
- B4 The Immortal Dub
- B5 Dread Locks Dub
- B6 Rocking Dub