Miharu Koshi - Tutu (1983)
Miharu Koshi 1983

Miharu Koshi - Tutu (1983)

Electronic Synth-pop

越美晴『Tutu』――YENレーベルの空気をまとった1983年作

越美晴の『Tutu』は、1983年に日本のYEN Recordsから発表されたアルバムである。YENは細野晴臣と高橋幸宏が主宰したレーベルで、当時の日本のニューウェーブ、シンセポップ、テクノポップの流れを強く映した存在だった。そんな中で『Tutu』は、越美晴のそれまでのキャリアを大きく組み替えた作品として位置づけられている。もともとピアノ弾き語り寄りの活動で知られていた彼女が、ここではコケティッシュな歌声と電子的な編曲を前面に出し、YMO周辺の文脈にしっかり接続している。

録音地も含めて、東京とブリュッセルをまたぐ作品

このアルバムは東京とブリュッセルで録音されている。国際的な空気が自然に入り込んでいるのが面白いところで、冒頭曲「L'Amour Toujours」ではベルギーのテクノポップ・グループ、テレックスの楽曲をカバーしている。しかもテレックス本人たちが演奏に参加しており、単なる引用や表面的なカバーではない。日本のレーベル作品でありながら、ヨーロッパの電子音楽と直接つながる構成になっている点が、このアルバムの骨格を作っている。

収録曲の核にある「脱アイドル化」

越美晴は1978年にテレビ番組で優勝し、RCA/RVCからデビューした経歴を持つが、1983年に細野晴臣との接点を得て、音楽性を大きく切り替えていく。『Tutu』はその転換点にある作品で、本人が「脱アイドル化」を進めていった流れと重なる。ここでは歌のかわいらしさだけが前面に出るのではなく、シンセサイザーの輪郭、リズムの硬さ、アレンジの緻密さが印象を決めている。声は軽やかだが、その周囲の音像はかなり設計されていて、当時の日本のテクノ歌謡やシンセポップの中でも、かなりはっきりした個性を持つ。

「L'Amour Toujours」とB面の流れ

代表曲としてまず挙がるのは、やはり「L'Amour Toujours」だろう。テレックスとの共同作業という点も含めて、アルバムの入口として強い役割を持っている。原曲の持つ機械的な推進力に、越美晴の声が乗ることで、硬質さと人懐っこさが同居する。さらにB4には「Nichiyō Wa Ikanai」という表記があり、ラベル面では「越 美晴」と「チュチュ」の名義が使われている。表記の揺れも含め、当時の作品としての手触りが残るポイントである。

同時代の文脈に置くと見えてくるもの

『Tutu』は、YMO本体の周辺で生まれた作品群の中でも、女性ボーカル作品としての存在感が強い。細野晴臣や高橋幸宏の関わった作品に通じる洗練された電子音の処理がありつつ、越美晴自身の歌が前に出ることで、単なるプロデュース作品とは少し違う輪郭を持っている。日本の1980年代前半のシンセポップ、テクノポップの流れを語るときに、YMO関連作と並べて語られることが多いのも納得の内容だ。後年の再発が重ねられていることからも、現在まで評価が続いていることがわかる。

アルバムとしての位置づけ

越美晴にとって『Tutu』は、歌手としてのイメージを更新した時期の中心にあるアルバムである。クラシック教育を受け、ピアノと声を軸にしてきた背景を持ちながら、ここでは電子音楽の側へ大きく踏み込んでいる。その変化が、単なる路線変更ではなく、声の質感やフレーズの置き方まで含めて作品全体に反映されているのが興味深い。1983年という年の日本ポップスの空気、YENレーベルの方向性、細野晴臣との接点、テレックスとの国際的な協働。その複数の要素が、1枚のアルバムの中でまとまっている。

『Tutu』は、越美晴という表記で発表された時代の代表作としても、YEN Recordsを象徴する一枚としても、はっきりした輪郭を持つ作品である。派手な説明を必要としないくらい、1983年当時の電子音楽の空気がそのまま封じ込められている盤だ。

トラックリスト

  1. A1 L'Amour Toujours 3:44
  2. A2 Laetitia 5:50
  3. A3 Scandal Night 4:19
  4. A4 L'Amour... Aruiwa Kuro No Irony 5:25
  5. B1 Sugar Me 3:38
  6. B2 Pussy Cat 4:47
  7. B3 Keep On Dancin' 5:06
  8. B4 日曜は行かない 5:20
  9. B5 Petit Paradis 4:11

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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