OMD - Dazzle Ships (1983)
OMD『Dazzle Ships』(1983年)について
OMDことOrchestral Manoeuvres in the Darkの『Dazzle Ships』は、1983年3月に発表された4作目のスタジオ・アルバムである。前作『Architecture & Morality』で大きく評価を高めた直後に置かれた作品で、ここではヒット狙いのシンセポップだけでなく、短波ラジオの断片、アナウンス、機械音、サンプル素材を前面に出した実験性が強く出ている。OMDの中でも、ポップ・バンドとしての顔と、音響を組み立てる作家性が強くぶつかった時期の記録として重要な一枚である。
作品の位置づけ
OMDは1978年にウィラルで結成されたイギリスのエレクトロニック・バンドで、Andy McCluskeyとPaul Humphreysを中心に活動を始めた。Factory系の流れからVirgin傘下のDinDiscへ移った後、シングル・ヒットを重ねていくが、『Dazzle Ships』はその上昇局面の中で作られたアルバムである。つまり、勢いのある時期にあえて整ったポップ性を崩し、音の断片や不穏な空気を作品の中心に置いた形だ。
当時の反応は割れた。商業的には前作ほどの勢いを維持できず、UKアルバム・チャートでは5位まで到達しているが、ロングセラー型の成績ではない。一方で後年になるほど、こうした大胆な構成や、ポップの枠を押し広げた試みが再評価されている。OMDのディスコグラフィーの中でも、最も冒険的なアルバムのひとつとして見られている。
サウンドと聴きどころ
実際に通して聴くと、曲ごとの輪郭ははっきりしているのに、アルバム全体は通常のシンセポップ作品よりかなり不安定に感じられる。メロディが前に出る曲でも、背景にラジオの雑音や音声断片が差し込まれ、曲の中心が少しずつずれていく。整ったビートと、意図的に壊した素材が同居している感触である。
代表曲としては、タイトル曲「Dazzle Ships」や「Genetic Engineering」がまず挙がる。前者はアルバムの方向性をそのまま示すような構成で、機械的なリズムと断片化された音像が目立つ。後者は比較的推進力のある曲で、OMDらしいシンセのフレーズを保ちながらも、言葉の扱いに不穏さがある。「Telegraph」や「Radio Waves」も、このアルバムの特徴をよく示す曲で、放送や通信というモチーフがそのまま音作りに反映されている。
こうした作りは、同時代のニュー・ウェイヴや電子音楽の中でも少し特殊で、単なるシンセポップの延長には収まりにくい。Kraftwerk的な機械性、B-sideや実験音楽に近い断片処理、そしてポップ・ソングとしての体裁が一枚の中で並走している印象がある。OMDが当時「ABBAとStockhausenを同じ感覚でやりたかった」と語っていたという話も、この作品の方向性をよく示している。
制作とアートワーク
このアルバムには、音楽面だけでなく視覚面のエピソードもある。Peter Savilleが、Edward Wadsworthの《Dazzle Ships In Drydock At Liverpool》(1919年)から着想を得てタイトルを提案し、そのままジャケットのテーマにつなげた。第一次世界大戦期の迷彩艦艇“dazzle ships”のイメージを、アルバムの不規則で断片的な音像に重ねた形である。
初回のスリーブはゲートフォールド仕様で、開くと世界地図と穴あきの内袋が現れ、そこから別のイメージがのぞく作りになっていた。外側と内側の見せ方をずらすこの構成も、音の断片化と呼応している。OMDの作品の中でも、パッケージ全体でコンセプトを組み立てた例として印象が強い。
この盤について
この個体は1983年のヨーロッパ盤で、Virginの品番は205 295、レーベルコードはLC 3098 / LC 03098である。背面クレジットには西ドイツ製造、Ariola Group of Companiesによる流通表記があり、当時の欧州盤らしい仕様になっている。カットアウト・スリーブに印刷された内袋が付く点も、この時期のオリジナル盤の特徴である。ラベルにはVirgin表記があり、B2とB6のみ1981年の著作権表記が入る。
また、作品の背景としては、DinDiscの崩壊後にVirgin本体へ移った時期のアルバムでありながら、バンドは独立性を保って見せるためにTelegraphという架空のサブ・レーベル名義を使っている。こうした細部も、当時のOMDが単なるポップ・バンドではなく、見せ方まで含めて作品を組み立てていたことを示している。
まとめ
『Dazzle Ships』は、OMDがヒット・バンドとして進んでいた流れの中で、あえて実験性を押し出したアルバムである。短波ラジオ、放送音、機械音、ポップ・メロディが同じ場所に置かれ、曲の輪郭よりも断片の配置が印象に残る。前作の成功をそのまま繰り返さない姿勢、そしてその結果として生まれた緊張感が、この作品の核になっている。OMDの中では、完成度の高さよりも、方向転換そのものが記録された一枚として読むのが自然である。
トラックリスト
- A1 Radio Prague 1:18
- A2 Genetic Engineering 3:37
- A3 ABC Auto-Industry 2:06
- A4 Telegraph 2:57
- A5 This Is Helena 1:58
- A6 International 4:24
- B1 Dazzle Ships 2:21
- B2 The Romance Of The Telescope 3:27
- B3 Silent Running 3:34
- B4 Radio Waves 3:45
- B5 Time Zones 1:49
- B6 Of All The Things We've Made 3:27