Patrick Moraz - Future Memories II (1984)
Patrick Moraz『Future Memories II』(1984)
Patrick Morazの『Future Memories II』は、1984年にUSのPVC Recordsから出たアルバムで、スイス出身のキーボーディストによるソロ作品のひとつ。モラーツはYesやThe Moody Bluesで知られる人物だが、ここではバンドの一員というより、電子鍵盤を使って作品そのものを組み立てるソロ・アーティストとしての面が前面に出ている。タイトルからもわかる通り、前作『Future Memories』の流れを受けた内容で、即興性と構築性が同居した作りになっている。
即興を作品化する姿勢
この作品の核にあるのは、モラーツが掲げていた「instant composition」の考え方だ。つまり、あらかじめ細かく書き込んだ楽曲を演奏するというより、その場で作曲し、編曲し、演奏まで進めていく方法である。制作はスイス・ジュネーヴのAquarius Studiosで行われ、クレジットには「All music instantly composed, arranged & performed by Moraz」と記されている。電子音楽でありながら、手触りはかなり生々しい。整ったシーケンスや機械的な反復よりも、鍵盤の選び方、音色の切り替え、フレーズの置き方に人の動きが残るタイプの作品だ。
レコード内袋には、収録曲「Video Games (How Basic Can You Get)」についての説明が付いており、作品全体の位置づけも示されている。さらに別面では、1作目『Future Memories』との関係が文章で整理されている。シリーズ作品としての意識が強いパッケージで、単発の実験盤というより、ひとつの制作方法を継続して記録したアルバムという印象が残る。
音の輪郭と聴きどころ
ジャンル表記はElectronicで、スタイルにはDark Ambient、Abstract、Modern Classical、Experimentalが並ぶ。実際の内容も、その並びに沿ったものとして理解しやすい。音の中心はシンセサイザーとキーボード群で、旋律がはっきり前に出る場面もあれば、音色の層を重ねて空間を作る場面もある。曲の流れは、まとまったソング形式よりも、音響の変化やモチーフの移り変わりを追う構成が目立つ。
この作品で耳に残るのは、完成されたメロディー以上に、音が立ち上がる瞬間と消えていく瞬間だ。低い音域の持続、細かい音型の反復、急に入れ替わる音色の対比など、キーボード奏者としての引き出しの多さがそのまま出ている。モラーツの経歴を思うと、ロックの文脈で知られる人物だが、ここではハーモニーの運びや音の配置に、ジャズ寄りの即興感覚がはっきり見える。
同時代の文脈
1980年代前半は、電子楽器が演奏の中心に入ってきた時期でもある。シンセ主体のポップスやアンビエント作品が増える中で、モラーツはその流れを単なる音色の更新としてではなく、演奏行為そのものの拡張として扱っている。クラシック寄りの構築感と、ジャズ由来の即興性を同じ作品内で行き来する姿勢は、当時の電子音楽の中でも少し独特だ。
同じ系譜で語られることのあるアーティストとしては、キーボードを中心に長尺の即興やコンセプト性の強い作品を作っていたミュージシャンが思い浮かぶ。ただし『Future Memories II』は、そうした大作志向の作品とは違い、演奏の現場感が前に出る。テレビ収録由来の要素が残る前作の流れを引き継いでいる点も、このシリーズならではの特徴だ。
作品の位置づけ
Patrick Morazにとって『Future Memories II』は、バンド活動とは別に、自分の鍵盤演奏と即興制作をそのまま記録した作品として置ける。YesやThe Moody Bluesで見せた役割とは違い、ここでは他者との分担よりも、ひとりで音楽を組み立てる比重が大きい。ソロ・アーティストとしての輪郭が最も見えやすい時期の記録のひとつで、演奏技術と制作方法がそのまま作品の性格になっている。
また、このアルバムは商業的なヒット作というより、制作思想を強く持った作品として受け取られてきた。派手な代表曲を押し出すタイプではなく、アルバム全体でひとつのやり方を示す内容だ。PVC RecordsのUS盤として出たこと、そしてカナダ制作・US流通のクレジットが入っていることも、この時期の流通事情を反映している。
まとめ
『Future Memories II』は、Patrick Morazが電子楽器を使って即興と構築をつなげた1984年のソロ作品。前作の延長線上にありながら、より制作手法そのものが見える内容で、音の一つひとつに演奏者の判断が残る。ロックの大舞台で知られる人物の別の顔として、そして80年代前半の電子音楽の一断面として、静かに輪郭を持つアルバムである。
トラックリスト
- A1 Heroic Fantasy 6:54
- A2 Video Games (How Basic Can You Get) 4:07
- A3 Satellite 6:39
- A4 Navigators 7:18
- B1 Flippers 4:17
- B2 Pilot's Games 6:54
- B3 Chess 6:19
- B4 After The Year After... 2:30
動画プレイリスト
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Patrick Moraz - Satellite
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Patrick Moraz - Video games (how basic can you get)
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Patrick Moraz - Chess
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Patrick Moraz - Flippers
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Patrick Moraz (ex-Yes, Moody Blues, Refugee, Mainhorse) - Future Memories II
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Patrick Moraz - Future Memories
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Patrick Moraz (Yes, Moody Blues) "Flippers" (Future Memories II, 1982)
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Patrick Moraz (YES) "Chess" (Future Memories II)
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Patrick Moraz (Yes, Moody Blues) "Heroic Fantasy" / "Satellite" (Future Memories II, 1982)