Phil Ranelin - Vibes From The Tribe (1976)
Phil Ranelin『Vibes From The Tribe』
デトロイトのインディペンデント・ジャズ・コレクティヴ「Tribe(トライブ)」の共同創設者であるトロンボーン奏者フィル・ラネリン(Phil Ranelin)が、1976年に発表した2ndリーダー・アルバム。歴史的名盤『The Time Is Now!』(1974年)に続き、オリジナルTribeレーベル(TRCD4008)の掉尾を飾るスピリチュアル・ジャズ/ジャズ・ファンクの最高峰である。アルバムの表ジャケットには「家族(私たちの始まり)と子どもたち(私たちの未来)に捧ぐ」との献辞が掲げられ、黒人コミュニティの結束と精神性を鮮烈に刻み込んでいる。
制作背景・エピソード
レコーディングはデトロイトのStrata StudioおよびSuperdiscで行われた。A2〜A4およびB面の楽曲群は1975年9月23日にSuperdiscで録音され、A1とA5はStrata Studioで収録された。マスタリングはSuperdisc、プロデュースはラネリン自身の「Time Is Now Productions」が担当した。
演奏陣には、Tribeのもう一人の設立者であるウェンデル・ハリソン(サックス、フルート)をはじめ、名手マーカス・ベルグレイヴ(トランペット)、ハロルド・マッキニー(エレクトリック・ピアノ)、ラルフ・アームストロング(ベース)、バド・スピングラー(パーカッション)ら、デトロイト・ジャズ界屈指の実力者たちが集結。志を同じくする音楽的同志たちによる熱気あふれるセッションが繰り広げられた。
時代の文脈
1970年代半ばのデトロイトは、自動車産業の衰退と人種対立、白人層の郊外流出によって深刻な都市荒廃と経済危機に直面していた。そうした過酷な現実の中で、メジャー・レーベルの商業主義や白人資本から独立し、自らの音楽と権利を守るために結成された自主組織がTribeであった。彼らは「Music is the healing force of the Universe(音楽は宇宙を癒す力である)」を理念に掲げ、レコード制作のみならず啓発雑誌『Tribe』の出版・配布を自力で手掛けていた。
本作に宿る音楽は、モータウンのお膝元ならではの骨太なファンク・グルーヴと、公民権運動直系のブラック・コンシャスネス、そして先鋭的なモーダル/フリー・ジャズのアヴァンギャリズムが過不足なく結晶化した、当時のデトロイト黒人コミュニティの魂の記録そのものである。
後世への影響
自主制作盤ゆえに流通枚数が限られていた本作は、1980年代末以降のアシッド・ジャズ/レアグルーヴ・ムーヴメントやスピリチュアル・ジャズ再評価を通じて、Strata-EastやBlack Jazzと並ぶ「70年代ブラック・ジャズ究極の聖典(ホーリー・グレイル)」として世界的な神格化を遂げた。
1996年には英Soul Jazz Recordsがコンピレーション『Message From The Tribe』を編纂して新世代に衝撃を与えた。さらにデトロイト・テクノの巨頭カール・クレイグ(Carl Craig)がTribeのスピリットに深く傾倒し、自身のレーベルPlanet Eからリミックス盤を発表したほか、2009年にはラネリンやハリソンら現役メンバーを再結集させて復活アルバム『Tribe Rebirth』をプロデュース。デトロイト・テクノとスピリチュアル・ジャズの血脈をつなぐ決定的な結節点となった。
サウンドと聴きどころ
A面では、神秘的なフルートとアフロ・パーカッションが交錯するプレリュードから、ファンキーなブラス・リフが唸る「Sounds From The Village」、愛妻に捧げられたリリカルなバラード「Wife」、そして無垢な子どもの歌声とソウルフルなジャズ・ファンクが一体化した「For The Children」まで、多彩で瑞々しい音楽性が凝縮されている。
そしてB面全面(約18分)を費やした大作「He The One We All Knew (Parts 1 & 2)」は、敬愛するジョン・コルトレーンに捧げられたスピリチュアル・ジャズ屈指の叙事詩。地を這うようなモーダル・ベース・ラインの上で、ファラオ・サンダース直系の熱狂的なブロウとラネリンの魂を震わせるトロンボーンが絡み合い、崇高なクライマックスへと昇華していく。
トラックリスト
- A1 Vibes From The Tribe (Prelude) 3:35
- A2 Sounds From The Village 3:44
- A3 Wife 5:54
- A4 For The Children 5:19
- A5 Vibes From The Tribe (Encore) 0:56
- B He The One We All Knew (Parts 1 & 2) 18:05
動画プレイリスト
このアーティストについて
Phil Ranelin(フィル・ラネリン、1939年5月25日生まれ)は、アメリカ・インディアナ州インディアナポリス出身のジャズ・トロンボーン奏者、作曲家、...
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