Soft Cell - Non-Stop Erotic Cabaret (1981)
Soft Cell『Non-Stop Erotic Cabaret』――夜の街を切り取ったデビュー作
Soft Cellの『Non-Stop Erotic Cabaret』は、Marc AlmondとDave Ballによる英国のシンセ・デュオが1981年に発表したデビュー・アルバムだ。リリースはUKのSome Bizzareからで、品番はBZLP 2。彼らの名を一気に広めた「Tainted Love」を含む作品として知られ、Soft Cellの出発点をそのまま示す一枚でもある。シンセポップの軽さだけでなく、都会の夜、欲望、孤独、疲れた空気までを含んだ内容で、同時代のニュー・ウェイヴやシンセ・ポップの中でもかなり具体的な風景を持つアルバムだ。
制作背景と音の輪郭
録音は主にロンドンのCamden Cell Studiosで行われ、「Tainted Love」だけはAdvision Studiosで録られている。プロデュースはMike Thorne。限られた予算の中で作られた作品だが、Thorneが持ち込んだNED Synclavierの存在が大きい。高価な機材を使いながらも、全体の印象は過度に整いすぎず、低予算作品らしい切迫感が残る。ここが面白いところで、音は機械的でも、冷たさだけに寄らない。
実際に通して聴くと、打ち込みやシンセのフレーズは明快なのに、Marc Almondの歌い方がかなり前に出るため、曲の輪郭がはっきりしている。ダンス・ミュージックとしての推進力と、語りかけるようなボーカルが同居していて、アルバム全体が一つの夜の流れとしてつながっている感覚がある。収録曲は短いものも多く、場面転換が速い。
「Tainted Love」の存在感
このアルバムを語るうえで、「Tainted Love」は外せない。Gloria Jonesによるノーザン・ソウルの楽曲を、Soft Cellはシンセポップとして組み替え、1981年7月のシングルとして全英1位を獲得した。世界的にも大きなヒットとなり、英国では1981年に2番目に売れたシングルになっている。米国でも1982年にBillboard Hot 100で8位まで上昇し、長期間チャートに残った。
アルバム内では、シングルとしての強さがそのまま作品の入口になっている一方で、全体はヒット曲だけに寄りかからない。「Tainted Love」が持つ明快なフックに対して、他の曲はもっと湿度があり、夜の部屋や街角の閉塞感を描く。だからこそ、単なるヒット曲の寄せ集めではなく、アルバムとしてのまとまりが見えてくる。
歌詞の世界と曲の並び
Marc Almondは後年、この作品を「ある人物がソーホーの夜の世界へ逃避していく物語」として語っている。実際、歌詞の主題は性、ナイトライフ、孤独、若さゆえの苛立ちなど、かなり都市的で具体的だ。「Seedy Films」「Sex Dwarf」「Bedsitter」といった曲名にも、その空気がそのまま出ている。派手な言葉よりも、場末の感触や居場所のなさが前に出る。
バック・ヴォーカルにはVicious Pink PhenomenaのJosie WardenとBrian Mossがクレジットされている。資料によっては担当の細部が少し異なるが、少なくともコーラスの配置がこの作品の奇妙な色気を支えているのは確かだ。特に「Sex Dwarf」は映像面でも強い印象を残し、過激なSM的描写のため英国では放送禁止扱いになった。曲そのものも、タイトル通りに危うさが先に立つ。
Soft Cellの中での位置づけ
『Non-Stop Erotic Cabaret』は、Soft Cellの出世作であると同時に、彼らの方向性をかなり早い段階で示したアルバムでもある。後の『The Art of Falling Apart』では、より硬質で攻めた要素が強まり、グループの緊張感が増していくが、このデビュー作には、ポップな入口と不穏な内容が同居する独特のバランスがある。のちの再結成や新作を知ったうえで聴いても、この最初の一枚に彼らの核が詰まっている印象は変わらない。
同時代のシンセ・ポップやニュー・ウェイヴの中では、Depeche ModeやBlancmangeのような電子音主体の流れと並べて語られることが多いが、Soft Cellはそこにソウルのカヴァー、ナイトライフの具体性、ドラッグや性をめぐる生々しい題材を持ち込んでいる。抽象的な未来像ではなく、都市の裏通りをそのまま音にしたような作りが特徴だ。
このUKオリジナル盤について
本盤は1981年のUKオリジナル、Some Bizzare BZLP 2。インナー・スリーヴにはMarc Almondの歌詞が印刷されているが、「Tainted Love」はカヴァー曲のため掲載されていない。レーベル表記はSome Bizzareで、当時の初期カタログの中でも重要な位置にある一枚だ。Some Bizzareは、未発表アーティストを集めたコンピレーションからSoft Cellらを世に出したレーベルで、この時期の英国インディー/アンダーグラウンドの流れを支えた存在でもある。
チャート成績は英国5位、米Billboard 200で22位、カナダ2位、ニュージーランド7位。批評面でも評価が高く、『1001 Albums You Must Hear Before You Die』にも選ばれている。ヒット曲の印象が強い作品だが、アルバム全体としては、1981年の英国ポップが抱えていた欲望と倦怠を、かなり具体的なかたちで残した記録になっている。
トラックリスト
- A1 Frustration
- A2 Tainted Love
- A3 Seedy Films
- A4 Youth
- A5 Sex Dwarf
- B1 Entertain Me
- B2 Chips On My Shoulder
- B3 Bedsitter
- B4 Secret Life
- B5 Say Hello, Wave Goodbye