Teena Marie - Irons In The Fire (1980)
Teena Marie『Irons In The Fire』
「Ivory Queen of Soul(魂の象牙の女王)」と称えられたシンガー・ソングライター/マルチ奏者、Teena Marie(ティーナ・マリー)が1980年8月にMotown傘下のGordy Recordsから発表したサード・アルバム(カタログ番号:G8-997M1)。当時わずか24歳だった彼女が、全曲の作詞・作曲、ホーン/リズム・アレンジ、そして完全単独プロデュースを掌握し、女性アーティストとしての自立と圧倒的な音楽的才能を世界に証明した歴史的記念碑である。1976年に他界した最愛の父トーマス・レスリー・ブロッカートに捧げられた本作は、彼女自身が生涯「自分の全キャリアの中で最も愛する最高傑作」と公言し続けた。
制作背景と「I Need Your Lovin'」の逸話
リック・ジェームズがプロデュースした1979年のデビュー作『Wild and Peaceful』、リチャード・ルドルフ(ミニー・リパートンの夫)を迎えた2作目『Lady T』を経て、本作『Irons In The Fire』ではティーナ自身が制作の主導権を完全に手中に収めた。録音はハリウッドのMotown / Hitsville Recording Studiosで行われ、ジャケットには誇らしげに「Written and Produced by Teena Marie」と刻まれた。
先行シングルとなった「I Need Your Lovin'」を巡っては、モータウン総帥ベリー・ゴーディが「明確なフックに欠ける」とリリースに難色を示した逸話が残る。これに対しティーナは、「うねるベースライン、M-O-N-E-Yのプレコーラス、そしてメインのサビという3つの完璧なフックが存在する」と直談判してリリースをもぎ取った。結果としてこの曲は全米R&Bチャート9位、Billboard Hot 100で37位、ダンス・チャート2位を記録する特大ヒットとなり、彼女の卓越したポップ・センスを証明してみせた。
サウンドと聴きどころ
本作の大きな魅力は、どこまでも伸びやかな驚異の声域とアスレチックなヴォーカル・コントロール、そして重厚なファンク・グルーヴとジャズ/ラテン音楽の洗練されたコード感の融合にある。
フロアを揺るがすディスコ・ファンク「I Need Your Lovin'」の疾走感に続き、7分を超える長尺のグルーヴで畳み掛ける「Chains」、力強いロック・ファンクの躍動感を持つ「First Class Love」など、アップテンポ曲での爆発的な熱量は圧巻である。一方で、ラテン・ジャズの洒脱なアコースティック・アンサンブルが薫る「You Make Love Like Springtime」、そして深い情愛と祈りを込めて歌い上げる至高のスロー・バラード「Young Love」やタイトル曲「Irons In The Fire」など、全編にわたって彼女の豊かな音楽的語彙とソウルフルな情熱が溢れ出ている。
時代の文脈と後世への影響
1980年は、70年代のフィリー・ソウルやディスコから、シンセサイザーとエレクトリック・ベースが牽引する80年代型アーバン・ファンク/ブギーへとブラック・ミュージックが進化を遂げた転換期であった。白人女性でありながらモータウンに迎え入れられ、ブラック・ラジオ局やR&Bチャートを本物のソウルで席巻したティーナ・マリーは、ブルー・アイド・ソウルという枠組みすら超越した存在としてブラック・コミュニティから絶大なリスペクトを集めた。
女性アーティストが外部プロデューサーに頼ることなく、作詞・作曲・演奏・プロデュースの全権を自ら統括して大成功を収めた先駆的傑作として、後の女性R&Bクリエイターたちに計り知れない影響を与えた。米ビルボードR&Bチャートで9位を記録しゴールド・ディスクを獲得した本作は、80年代ブラック・ミュージック史に燦然と輝く不滅のクラシックである。
トラックリスト
- A1 I Need Your Lovin' 7:29
- A2 Young Love 5:29
- A3 First Class Love 5:06
- A4 Irons In The Fire 3:32
- B1 Chains 7:09
- B2 You Make Love Like Springtime 5:00
- B3 Tune In Tomorrow 6:22
- B4 You Make Love Like Springtime (Reprise) 3:20
動画プレイリスト
このアーティストについて
Teena Marie(ティーナ・マリー、本名: Mary Christine Brockert)は、1956年3月3月5日サンタモニカ生まれ、2010年12月26日にパサデナで亡くなった、...
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