Gil Scott-Heron - Moving Target (1982)
Gil Scott-Heron『Moving Target』(1982)
詩人・シンガーソングライター・社会活動家として知られ、「ヒップホップのゴッドファーザー」と称されるギル・スコット=ヘロン(Gil Scott-Heron)が、1982年にArista Recordsから発表したスタジオ・アルバム『Moving Target』。長年の盟友ブライアン・ジャクソンとの名コンビ解消後、新結成のバックバンド「アムネスティ・エクスプレス(Amnesty Express)」を率いて制作され、1980年代の新たな音楽的・思想的ヴィジョンを提示した力作である。
新体制アムネスティ・エクスプレスと英米録音セッション
1980年に盟友ブライアン・ジャクソンとの共同作業に幕を引いたギルは、新たにロバート・ゴードンら実力派ミュージシャンを迎えて「アムネスティ・エクスプレス」を結成した。本作のレコーディングは、米ヴァージニア州スプリングフィールドのBlas Studio、英国ロンドンのTownhouse、オックスフォードのThe Manor、そしてロサンゼルスのRecord Plantと米英各地の名門スタジオを跨いで敢行された。
サウンド面では、前作『Reflections』(1981年)で推し進めた80年代型エレクトリック・ファンクやアーバン・ソウルの質感をさらに洗練させ、シンセサイザーの鋭角的なリフやレゲエ/ダブの粘り強いビート感覚を大胆に導入。洗練されたモダン・サウンドでありながら、ギルが紡ぎ出す言葉の切迫感とバリトン・ボイスの重厚さは、より一層の凄みを帯びている。
レーガン政権下への痛烈な告発と都市の現実
1981年に発足したロナルド・レーガン政権(レーガノミクス)により、福祉の削減と軍拡が進み、格差と人種的分断が加速していた当時のアメリカ社会に対し、ギルの舌鋒は容赦なく向けられた。オープニングの「Fast Lane」は、大都市の狂騒と当時蔓延していたコカイン禍に警鐘を鳴らすタイトなシンセ・ファンク。続く「Washington D.C.」では、国家権力と富の中枢でありながら、足元に過酷な貧困と黒人コミュニティの苦境を抱える首都の欺瞞を、軽快なレゲエ・リズムに乗せてシニカルに暴き出す。また「Blue Collar」では、経済政策の影で喘ぐ労働者階級の現実を情感豊かなブルース・フィーリングで描き出している。
圧巻の組曲「Black History / The World」
本作の頂点にして最大のハイライトが、アルバムの最後を飾る9分40秒の大作「Black History / The World」である。アフリカからの大西洋奴隷貿易、アメリカ南部での過酷な奴隷制度、公民権運動の闘争、そして現代のグローバルな反帝国主義闘争へと至る壮大な黒人史を、緊迫したジャズ・ファンク・アンサンブルをバックに語り尽くす圧巻のスポークン・ワード組曲である。
過酷な抑圧の歴史を振り返りながらも、絶望に沈むことなく黒人の不屈の尊厳と連帯を力強く鼓舞するその言葉は、のちのヒップホップ世代(パブリック・エネミーやモス・デフら)にも決定的なインスピレーションを与えた。時代を鋭利に切り取る詩人としての真骨頂が刻まれた、80年代ギル・スコット=ヘロンの必聴盤である。
トラックリスト
- A1 Fast Lane 4:55
- A2 Washington D.C. 4:13
- A3 No Exit 4:08
- A4 Blue Collar 5:18
- B1 Explanations 4:10
- B2 Ready Or Not 4:32
- B3 Black History / The World 9:40
動画プレイリスト
このアーティストについて
Gil Scott-Heronは、1949年4月1日にアメリカ・イリノイ州シカゴで生まれた、シンガー、スポークンワード・アーティスト、作家、活動家だ。父方はジャ...
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