Zack Zorn - Zack Zorn (2023)
Zack Zorn『Zack Zorn』
ノルウェーのレーベル Byström Records から2023年にリリースされた、Zack Zorn 名義のセルフタイトル・デビューアルバム。本作は、ノルウェー屈指のオルタナ・カントリー/ルーツ・ロックバンド Midnight Choir の創設者・メインソングライターであり、プログレッシブ・ロックバンド Utopian Fields での経歴も持つ演奏家/コンポーザーの Atle Bystrøm Olsen(Al Deloner 名義でも活動)と、作詞家・シンガーソングライターの Kjeld-Willy Hansen の2人を中心とするコラボレーション・プロジェクトである。限定アナログLP盤(カタログ番号:ALLP08)として世に送り出された。
制作背景・エピソード
本作の大きな特徴は、実に約10年もの歳月をかけてじっくりと練り上げられた点にある。短期間のスタジオセッションで一気に録音された作品ではなく、Hansen が紡ぐダークで詩的なノルウェー語の詞世界と、Olsen による重厚なソングライティングが長い時間をかけて結実した。
サウンド面では、Olsen がアコースティック&エレクトリック・ギターをはじめ、ピアノ、ハーモニカ、ボーカル、ドラム、パーカッションに至る多彩な楽器を自ら操り、Hansen が哀愁を帯びたボーカルとアコースティック・ギターを担当。さらに、プロデュースとエンジニアリングも務めた Nils Mathisen(オルガン、エレクトリック・ヴァイオリン)や Bjørn Jacobsen(オルガン、プログラミング)、Karl "Kiwi" Angel(ベース)、Tore Ramberg(ベース)、Boss Næss(ドラム)、Arve Karlsen(サックス)、Rikke Knudsen(ボーカル、フルート)など、ノルウェーの実力派ミュージシャンたちが集結し、曲ごとに陰影に富んだアンサンブルを構築している。
時代の文脈
本作のルーツを辿る上で欠かせないのが、Atle Bystrøm Olsen が率いた Midnight Choir の存在だ。Midnight Choir は1990年代から2000年代にかけて、アメリカーナやルーツ・ロックを昇華させた傑作群でノルウェー版グラミー賞(Spellemannprisen)を受賞するなど高い評価を確立した。さらに Olsen は1980年代末に Utopian Fields でシンフォニック・ロックを展開した経歴も併せ持っており、本作における重層的なアレンジや構成美には、そうした多面的なキャリアが反映されている。
現地の案内や音楽評では「青いバラードとエレクトリック・エレジー(blå ballader og elektriske elegier)」と称され、Neil Young & Crazy Horse、Tom Waits、Leonard Cohen、Bob Dylan の系譜を引くブルース・ロック/アメリカーナ、そしてノルウェーの伝統的な歌もの(ヴィーセ)の交差点に位置づけられている。2020年代の北欧インディ・シーンにおいて、流行に流されず無骨なルーツ・ミュージックと詩的な文学性を追求した一枚といえる。
サウンドと聴きどころ
全6曲で構成されるアナログ盤の各面には、夜の静けさとアルコールの匂い、孤独や漂白の情景が色濃く漂う。現地では「閉店後の人生についての6つの歌」とも紹介されており、オスロの歴史ある宿泊所 Cochs Pensjonat をモチーフにしたオープニング曲「Cochs Blues」から、「Gul Semiotikk」「Stengt Port」、B面の「Hydra」「Nattens Narr」、そして夜の酩酊と魂の彷徨を歌う「Sjel På Fylla」へと展開していく。
飾り気のない Hansen の歌声を包み込む Olsen の枯れたギターソロや哀愁あるハーモニカ、随所に現れるオルガンやエレクトリック・ヴァイオリンの幽玄な音色は、まさに10年の熟成を感じさせる深みを持つ。派手なチャートアクションや商業主義とは一線を画し、良質なアナログ盤としてじっくりと聴き込まれるべき、北欧ルーツ・ロック/バラードの隠れた名品である。
トラックリスト
- A1 Cochs Blues
- A2 Gul Semiotikk
- A3 Stengt Port
- B1 Hydra
- B2 Nattens Narr
- B3 Sjel På Fylla