乱魔堂 - 乱魔堂 (1972)
Ranmadou 1972

乱魔堂 - 乱魔堂 (1972)

Rock Blues Rock

乱魔堂『乱魔堂』――日本語ブルースロックの熱をそのまま閉じ込めた一枚

乱魔堂の唯一のスタジオ作『乱魔堂』は、1972年8月にポリドールからLPとして出た作品で、2001年にP-Vine Recordsから再発された盤でもある。バンド名をそのまま冠したアルバムらしく、グループの輪郭が最もはっきり出た記録になっている。編成は、洪栄龍のギターを軸に、津下信孝のギター、猿山幸夫のベース、松吉久雄のヴォーカル、矢島敏郎のドラム、上村立雄のキーボードという6人。ギターが2本立つところに、当時のバンドとしての推進力が見える。

この作品の核にあるのは、ブルースを基盤にした日本語ロックの感触だ。近年の紹介でも、はっぴいえんどの影響を受けつつ、フォークロック、アシッド、ブルースの要素を濃く持つ作品として扱われている。実際、収録曲の「風がぴゅー・ぴゅー」「可笑しな世界」「一握りのブルース」といった題名だけでも、当時の日本ロックが向いていた方向が伝わってくる。英米ロックの型をなぞるだけではなく、日本語の言葉づかいと土臭い演奏を同じ盤面に置いた作り。

乱魔堂は、もともとライブ・バンドとしての色が強かった。1971年8月の第3回全日本フォークジャンボリーでは、初日にPAチェック代わりの扱いを受け、抗議ののち2日目深夜に再出演したというエピソードが残る。後年、その日の音源が商品化され、そこで聴けるのは日本語オリジナルで直球のブルースを鳴らす姿だ。スタジオ盤『乱魔堂』とは印象がかなり異なり、ライブではもっと剥き出しのブルース寄りだったことがわかる。

その意味で、このアルバムはバンドの“完成形”というより、短い時間の中で音の向きが変わっていく途中の記録として面白い。ライブ期の濃いブルース感から、スタジオではより整理された音像へ寄っていて、ウエストコースト風の軽さを感じるという見方もある。重さ一辺倒ではなく、演奏の抜けや歌の運びに少し風通しのよさがあるところが、この盤の個性になっている。

2001年盤は、オリジナルLPをそのまま復刻した再発で、シングルジャケットに4ページの折り込みインサート、帯付きという仕様。P-Vineの「New Rock no yoake 70's collection」の一枚として扱われている。70年代日本ロックの再評価が進む中で、こうした形で音源が改めて手に取れるようになったのは大きい。オリジナルの1972年盤と比べると、再発盤は資料性の高いパッケージで、当時の空気を補う役割も担っている。

乱魔堂の立ち位置を整理すると、派手なヒットで知られるタイプではなく、70年代初頭の日本ロックの中で、ブルースの骨格を持ちながら独自の日本語表現へ踏み込んだバンドとして見えてくる。はっぴいえんど周辺の流れと接点を持ちつつ、よりライブ感の強い演奏で押し切る場面もある。スタジオ盤1枚だけで終わってしまったことも含めて、短い活動の輪郭がそのまま盤に刻まれた作品だ。

聴きどころを挙げるなら、まずは「一握りのブルース」のタイトル通りの直線的なブルース感、次に「風がぴゅー・ぴゅー」に見える言葉の軽さと演奏の硬さの差、そのあたり。収録曲の並び全体を通して、70年代前半の日本語ロックが持っていた実験性と、バンドとしての生々しさが同居している。資料としても、聴き物としても、当時の空気をそのまま受け止められるアルバムになっている。

トラックリスト

  1. 1 ちぇ! 3:35
  2. 2 ひたすら 2:26
  3. 3 出発 4:50
  4. 4 恋の赤電話 2:35
  5. 5 風がぴゅー・ぴゅー 4:29
  6. 6 写生 2:51
  7. 7 可笑しな世界 6:19
  8. 8 一握りのブルース 4:38
  9. 9 何の為に 6:00

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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