Vinyl Record Reviews
A Certain Ratioは、1970年代後半にマンチェスターで結成されたイギリスのポストパンク/インディー・ファンク・バンドだ。名前はブライアン・イーノの『Taking Tiger Mountain (By Strategy)』収録の「The True Wheel」の歌詞から取っている。初期メンバーはJez Kerr、Martin Moscrop、Peter Terrell、Simon Toppingの4人で、のちにDonald Johnsonが加わり、バンドのリズムと演奏の輪郭が大きく変わっていく。
結成当初のACRは、Wire、Brian Eno、Velvet Underground、Kraftwerkなどから影響を受けていた。ドラムレスでスタートしたが、ライヴを見たロブ・グレットンが彼らを見いだし、トニー・ウィルソンがファクトリー・レコードと契約してマネージャーになった。ウィルソンは彼らを「新しいセックス・ピストルズ」と呼んだ。
1979年にはマーティン・ハネットのプロデュースで「All Night Party」を発表し、ここから正式な録音活動が始まる。同年にドラマーのDonald Johnson(DoJo)が加わり、そのサウンドと演奏力を一変させた。
1979年12月にはトーキング・ヘッズのUKツアーで前座を務め、その音源の一部は『The Graveyard and the Ballroom』に収録された。ここをきっかけに、バンドの音にはファンカデリック、ジョージ・クリントン、ブーツィー・コリンズ、バーケイズ、ジェームス・ブラウンの要素がはっきり見えるようになる。
1980年の「Shack Up」は50ポンドで録音され、アメリカのBillboardディスコ・チャートで46位を記録した。アンティルズ/アイランドが契約に乗り気で、グレイス・ジョーンズとの録音にも誘われたが、彼らはファクトリーとウィルソンのもとにとどまった。
1980年9月、まだ駆け出しのニュー・オーダーとともにアメリカをツアーし、ボーカルにMartha "Tilly" Tilsonを加えた。Moscropはニューヨークを「音楽の大きなるつぼ」と呼び、キューバ、アフリカ、南米の音に触れたことが「本当に刺激になった」と語っている。ニュージャージーで録音した1作目『To Each...』(1981年)では、ハネットの手法がジャズやファンクの要素を削ぎ落とし、Moscropは「彼は僕らをジョイ・ディヴィジョンに似せすぎていると思った」と振り返る。
自分たちでプロデュースした1982年の『Sextet』は全英インディー・アルバム・チャートで1位となり、同年の『I'd Like to See You Again』とともに、ポスト・ディスコのR&B、ラテン、ブラジル音楽、ジャズの要素を取り込んだ。「Flight」「Waterline」など7曲が全英インディー・チャートのトップ10に入っている。
1982年末にSimon ToppingとPeter Terrellが脱退し、Toppingはのちにマイク・ピカリングとT-Coyを結成した。1985年にはAndy Connellが抜けてスウィング・アウト・シスターを結成する。1986年にはファクトリーから『Force』を発表した。
1989年にはA&Mと契約して『Good Together』をリリースし、「Won't Stop Loving You」が全英55位を記録する。その後は契約終了を経て、Rob's Recordsから『Up in Downsville』(1992年)、さらに『Change the Station』(1997年)へと続いたが、活動は断続的になっていく。
ACRは映画との接点も多い。「Wild Party」は『Letter to Brezhnev』(1985年)で使われ、「Shack Up」は『Intimacy』(2001年)に登場する。ファクトリー・レコードを扱った『24アワー・パーティー・ピープル』(2002年)にも出演しており、Martin Moscropは同作の音楽監修も担当した。
2008年には『Mind Made Up』でスタジオに戻り、長年の協力者Denise Johnsonが3曲で歌っている。2017年からはミュート・レコードが旧作の再発やアンソロジーを進め、2019年には結成40周年ボックス『ACR:Box』が出た。
2020年には12年ぶりのアルバム『ACR Loco』を発表し、ザ・スミスのマイク・ジョイスも参加した。その2か月前にDenise Johnsonが亡くなっている。2023年にはEllen Beth Abdiを迎えた『1982』、2024年には、Kerr、Moscrop、Johnsonの3人がほぼすべての楽器を演奏し、ダン・キャリーがプロデュースした『It All Comes Down to This』をリリースした。
AllMusicのAndy Kellmanは、ブラスの効いたファンク、ブラジリアン・ジャズ、ダブ、エレクトロを混ぜた、強烈にリズミックなポストパンクのバンドと評している。