伊藤詳 - 日出処の天子 (1982)
Akira Ito 1982

伊藤詳 - 日出処の天子 (1982)

Electronic Rock Ambient Soundtrack New Age

伊藤詳『日出処の天子』——漫画世界を音で組み立てた1982年のイメージ・アルバム

伊藤詳の『日出処の天子』は、1982年に日本コロムビアから出たイメージ・アルバムである。山岸凉子の同名漫画をもとにした作品で、古代史ロマンの空気をシンセサイザー主体の音でまとめた内容になっている。伊藤詳は1945年生まれの日本のロック/ニューエイジ系ミュージシャンで、元ファー・イースト・ファミリー・バンドのシンセサイザー奏者としても知られる人物。のちに瞑想音楽やアンビエント寄りの作風へ進んでいくが、この盤でもその方向性がすでに明確に出ている。

このレコードは、漫画の物語をそのまま朗読や劇伴で追うタイプではなく、原作の場面や人物像を音で抽象化した構成になっている。収録曲には「Hi Izuru Tokoro (Hi No Kuni)」「Mijiran Densetsu」「Mirokusenka」「Shitennō」「Shakujō No Hibiki」など、原作の語感や世界観をそのまま引き取った題名が並ぶ。曲名だけでも、聖徳太子をめぐる神話性、宮廷の緊張感、宗教的なイメージが前面にあることがわかる。

作品の内容と音の組み立て

全11曲の構成で、A面は比較的まとまった流れを持ち、B面では曲数を増やして場面の切り替えを細かく見せる作り。電子音を中心にしながらも、単に無機質なだけではなく、旋律の置き方や音の間の取り方に人間的な温度が残っている。ニューエイジやアンビエントの文脈に置かれやすい盤だが、ロック出身の伊藤らしく、音の動きには芯がある。

タイトル曲にあたる「Hi Izuru Tokoro (Hi No Kuni)」は、このアルバムの入口として機能する1曲で、作品全体の主題を示す役割が強い。「Mirokusenka」「Mumyō To Garyōtensei」「Shinbutsu'ittai」などの曲名からもわかるように、仏教的・思想的な語彙がそのまま音の設計図になっている。派手なメロディで押すというより、静かな持続と響きの変化で場面を作るタイプの作品である。

山岸凉子の漫画との関係

原作の『日出処の天子』は、1980年代前半の少女漫画を代表する作品のひとつとして語られることが多い。その濃密な人物関係や、古代日本をめぐる神秘性、政治と宗教が絡む緊張感は、音だけで再現するのが難しい題材でもある。そこで伊藤詳のアルバムは、ストーリーの説明よりも、作品全体に漂う空気を音響で支える方向に振られている。漫画の読後に聴くと、登場人物の感情や宮廷の空気が音の層として補強される感覚がある。

こうしたイメージ・アルバムは当時の日本では珍しくないが、この盤は素材との結びつきが比較的強い。単なる企画物というより、原作の世界を別メディアで再構成する試みとしてまとまっている。伊藤詳の持つ電子音楽の感覚が、山岸凉子の作品世界と噛み合っている点が、このレコードの核になっている。

1982年という位置づけ

伊藤詳にとってこの作品は、ロック・バンドの経験を経て、電子音楽やニューエイジ方面へ重心を移していく流れの中に置ける。1980年代初頭の日本では、シンセサイザーを前面に出した音楽が、ポップスや劇伴だけでなく、こうした漫画原作のイメージ・アルバムにも広がっていた。『日出処の天子』は、その時代の広がりを示す1枚でもある。

同時代の文脈で見ると、電子音楽を使って物語世界を描く姿勢は、海外のアンビエントやシンセサイザー・ミュージックとも通じる部分がある。ただし、この盤はあくまで日本の漫画原作に結びついた作品であり、古代史ロマンや宗教的モチーフを日本語の感覚で処理している点が特徴的である。西洋的なスペース・ミュージックとは少し違い、音の運びが作品の題材に密着している。

盤としての情報

今回の日本盤はオリジナル1982年のColumbia盤で、帯とインサート付きの仕様。日本のLPらしく、作品の世界を補う紙ものがそろっているのも嬉しいところである。収録内容は以下の通り。

  • A1: Hi Izuru Tokoro (Hi No Kuni)
  • A2: Mijiran Densetsu
  • A3: Mirokusenka
  • A4: Hanashizume No Matsuri
  • A5: Mumyō To Garyōtensei
  • B1: Shitennō
  • B2: Shinbutsu'ittai
  • B3: Espā (Umayado No Oji Emishi)
  • B4: Tojiko
  • B5: Seijaku
  • B6: Shakujō No Hibiki

とくに「Shitennō」「Espā (Umayado No Oji Emishi)」あたりは、曲名からして人物像や関係性を音に置き換える意図が見えやすい。作品全体を通して、派手な展開よりも、場面の輪郭を音でなぞる作りが中心になっている。

まとめ

『日出処の天子』は、漫画原作のイメージ・アルバムという枠に収まりつつも、伊藤詳の電子音楽家としての持ち味がはっきり出た1枚である。原作の古代史的な題材、宗教性、人物同士の緊張感を、言葉ではなく音で受け止める構成。1982年という時代の日本のシンセサイザー作品の広がりを示す記録としても見やすいレコードである。

トラックリスト

  1. A1 日出処 (火の国) 2:30
  2. A2 未戸郎伝説 3:50
  3. A3 弥勒仙花 5:00
  4. A4 鎮花祭 2:30
  5. A5 無明と画龍点晴 5:30
  6. B1 四天王 3:55
  7. B2 神仏一体 1:45
  8. B3 超能力者 (厩戸王子・毛人) 4:40
  9. B4 刀自古 2:25
  10. B5 静寂 2:40
  11. B6 錫杖の響き 2:30

動画プレイリスト

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