Big Big Train - Bard (2002)
Big Big Train『Bard』について
Big Big Trainは、イングランド南部ボーンマスを拠点に活動してきたプログレッシブ・ロック・バンドで、1990年結成のインディペンデントな存在だ。中心にいるのは、創設メンバーであり、現在も曲作りを担うGreg Spawton。バンドは長い活動のなかで編成を何度も変えながら、英国的な叙情と構成の細かい組み立てを持つ作品を積み上げてきた。その流れの中で『Bard』は、2002年に発表された3作目のスタジオ・アルバムとして位置づけられる作品だ。
2025年にEnglish Electric Recordingsから出たこのLPは、オリジナル盤の再発にあたる黒盤仕様。録音は2000年9月から2001年12月にかけて、BournemouthのMuscliffとNew ForestのNomanslandで行われた。2025年版ではRob AubreyがAubitt Studiosで2023年と2024年にリミックスとリマスターを担当している。Big Big Trainのカタログを知るうえで、初期の姿を現在の制作環境で見直した一枚になっている。
オリジナル盤の時代感
『Bard』の時期のBig Big Trainは、のちの大編成期とは違い、まだバンドの輪郭が現在ほど広がる前段階にある。主要メンバーはGreg Spawton、Andy Poole、Phil Hogg、Sean Filkins、Martin Readらで、当時の記録をたどると、バンド内部でも先の見えにくい時期だったことがうかがえる。現在の公式案内でも、長く入手困難だった作品として扱われており、再発まで「忘れられた作品」に近い状態だったことが示されている。
音の作りは、後年のBig Big Trainの作品と比べると、より初期プログレの手触りが残る。組曲的な展開、シンフォニックな鍵盤、ギターの重なり、曲ごとの空気の切り替えが目立つ。派手な押し出しよりも、フレーズの積み重ねで景色を作るタイプで、同時代の英国プログレ再興組や、静かな展開を重視するシンフォニック系の流れとも接点がある。
2025年再発で加わった要素
今回の再発で大きいのは、単なる再プレスではなく、原盤素材の見直しと補修が入っている点だ。Greg Spawtonのメモによれば、元のセッションはPro Toolsのマルチトラックで記録されていたため、データの回収と現行版への移行ができた。一方で、いくつかのバッキング・ヴォーカルとパーカッションが失われており、その部分はPhil Hoggが新たに再録し、Jo Michaelsが2024年にAubitt Studiosで失われたヴォーカルを録り直している。
この再発では、Mellotronやオルガンの音色も現代的なサンプルに差し替えられ、Moog Taurusペダルも追加されている。つまり、2025年盤は単なる音質向上版ではなく、オリジナル録音を土台にしながら、欠落部分を補い、音色の解像度を上げた新しいミックスとして聴ける内容だ。さらに「The Last English King」の2024年ライヴ版も収録され、作品の周辺まで含めた再提示になっている。
作品の中身と聴きどころ
収録曲群は、派手な即効性よりも、曲の流れの中でじわじわ輪郭が立つタイプが多い。Big Big Trainの後年の代表的な作風にある、物語性のある展開や、声と鍵盤の重なりで風景を描く手つきの前段階として聴くと、バンドの性格が見えやすい。特に再発盤では、埋もれていた音が整理されているため、各パートの役割が以前より追いやすい。
当時の評価は一様ではなく、静かで内省的な側面やメロディの運びを評価する声がある一方、曲の長さや構成の重さを指摘する反応もあった。だが、後年のBig Big Trainが大きく評価を伸ばしていく流れを知ると、『Bard』はその前夜の記録としてかなり重要だ。完成度の高い代表作というより、バンドが次の段階へ進む前の試行錯誤と整理が同居したアルバムとして受け取れる。
Big Big Trainの流れの中で
Big Big Trainは、その後にDavid Longdon期を経て、より精密でドラマ性の強い作品群へ進んでいく。『Bard』は、その後の成熟したスタイルと直結するわけではないが、Greg Spawtonの作曲感覚や、英国的な叙情を土台にしたアレンジの方向性は、すでにここに見えている。プログレッシブ・ロックやシンフォニック・ロックの文脈では、派手な技巧よりも構成と音の積み上げを重視する作品として置けるアルバムだ。
2025年の再発盤は、オリジナルの2002年盤をそのまま保存するというより、当時の素材を現在の耳で再構成したものに近い。長く手に入りにくかった作品が、補修と再ミックスを経て改めて聴ける形になったことで、『Bard』はBig Big Trainの初期を知るための重要な一枚として、はっきり輪郭を持ち直している。
トラックリスト
- A1 The Last English King
- A2 Broken English
- B1 This Is Where We Came In
- B2 Harold Rex Interfectus Est
- B3 Blacksmithing
- B4 Malfosse
- B5 Love Is Her Thing
- B6 How The Earth From This Place Has Power Over Fire
- B7 A Short Visit To Earth
- C1 For Winter
- D1 A Long Finish
- D2 Headlands
- D3 The Last English King (2024 Live Recording)