Booker T. & The M.G.'s - McLemore Avenue (1970)
Booker T. & The M.G.'s『McLemore Avenue』(1970)
Booker T. & The M.G.'sの『McLemore Avenue』は、1970年にStaxから出たアルバムで、ビートルズ『Abbey Road』への応答として知られる作品です。しかも単なるカバー集ではなく、収録曲の並びや組み立て方まで含めて、原作をインストゥルメンタルのソウル/R&Bとして組み替えた内容になっている。タイトルの“McLemore”は、Staxのスタジオがあったメンフィスの住所「926 East McLemore Avenue」に由来するもので、ジャケットも『Abbey Road』を思わせる作り。作品全体が、Beatlesへの敬意と、Staxの現場感を同時に示すものになっている。
Staxのハウスバンドが見せた、作曲者としての顔
Booker T. & The M.G.'sは、メンフィスのStaxを支えたハウスバンドとしてまず語られる存在だが、同時に自前のヒット曲を持つバンドでもある。「Green Onions」や「Hip Hug-Her」で知られ、Otis Redding、Sam & Dave、Wilson Pickettらの録音でも演奏面の中核を担った。『McLemore Avenue』は、そうした“伴奏者”としての役割を超えて、バンド自身の解釈を前面に出したアルバムとして位置づけられる。
1970年という時期も重要だ。Beatlesの『Abbey Road』は1969年の作品で、このアルバムはその直後に出た。Staxがソウルの現場で培ってきたリズム感、オルガン、ギター、ベース、ドラムの噛み合いを使って、英国ロックの代表作に向き合った形になる。ソウル・インストゥルメンタルの文脈で見ると、こうした“ロックの大作を別の言語で読み替える”試みは、当時のクロスオーバー感覚をよく表している。
内容は『Abbey Road』の再構成
この作品の面白さは、原曲をそのままなぞるのではなく、曲順を入れ替えたり、メドレーの流れを変えたりしている点にある。収録曲名はスリーブ表記とラベル表記で少し扱いが異なるが、いずれにしても『Abbey Road』の楽曲群を、Booker T. & The M.G.'sの演奏でまとめ直している。歌がないぶん、旋律の輪郭がくっきり出る場面もあり、逆にリズムの置き方で印象が変わる箇所も多い。
代表曲としては、先行シングルにもなった「Something」がまず挙がる。George Harrison作のこの曲は、Booker T. & The M.G.'s版でも大きく存在感を持ち、全米Hot 100で21位、R&Bチャートで10位を記録した。アルバムの中でも、メロディの強さがそのまま伝わる曲で、インストゥルメンタルに置き換えても骨格が崩れないことを示している。ほかにも、「Come Together」や「Here Comes the Sun」など、原曲の知名度が高い曲ほど、演奏のニュアンスの違いが見えやすい構成だ。
聴きどころは、メロディよりも“組み替え”の感覚
実際に聴くと、印象に残るのは派手な技巧より、曲のつなぎ方やリズムの置き換え方だ。原曲のフレーズをそのまま再現する場面でも、ドラムとベースの前のめりになりすぎない推進力、Booker T. Jonesのオルガンの押し引き、Steve Cropperのギターの短い切り返しが、曲の表情を変えていく。『Abbey Road』の持っていた整った流れが、メンフィス録音の手触りに置き換わる感じがある。
また、Staxらしい録音の空気もこの作品の要素だ。華美なオーケストレーションではなく、バンドの呼吸そのものを前に出す作り。Beatlesの楽曲を扱いながらも、最終的にはBooker T. & The M.G.'s自身の演奏集としてまとまっている。ソウルやR&Bのアルバムとして見ても、ロックの名作への返答として見ても、同じ演奏が別の意味を持つのがこの盤の面白さだ。
作品の位置づけと後年の評価
当時の評価は、後年の再評価ほど一枚岩ではなかったが、現在ではBooker T. & The M.G.'sの代表作の一つとして扱われることが多い。特に、Staxのハウスバンドが単なる裏方ではなく、ひとつの完成した表現単位として機能していたことを示す点で重要だ。『McLemore Avenue』は、Southern soulの中心にいたバンドが、同時代のロックの大作にどう向き合ったかを記録したアルバムでもある。
なお、オリジナルの1970年盤はStaxの当時の空気をそのまま持つ初出作で、のちの再発盤とは時代背景が異なる。レーベルの変遷を踏まえて聴くと、Staxがまだ強い制作力を保っていた時期の文脈が見えてくる。Booker T. & The M.G.'sが、メンフィスの現場からBeatlesに返した一枚。その距離感が、このアルバムの核になっている。
トラックリスト
- (Medley) 15:46
- A2 Something 4:07
- (Medley) 7:25
- (Medley) 10:39