Spinners - Spinners (1973)
Spinners『Spinners』(1973年 / Atlantic)
Spinnersの『Spinners』は、1973年にAtlanticから発表されたサード・スタジオ・アルバムであり、同時にグループにとってモータウン離脱後、Atlanticでの最初の作品でもある。ここでのSpinnersは、1960年代のモータウン・サウンドに根を置きながら、フィラデルフィア・ソウルへと活動の軸を移し、その新しい環境の中で一気に表情を変えていく。プロデュースはThom Bell、録音はフィラデルフィアのSigma Sound Studios。MFSBの演奏を背景に、都会的なソウル・グループ作品としての輪郭がはっきりした一枚になっている。
Atlantic移籍後の再出発を示す作品
Spinnersはデトロイト周辺で結成され、初期はモータウン傘下のV.I.P.などで活動していたが、当時のレーベル体制の中では十分な推進力を得られなかった。1972年に契約満了を迎えたのち、G.C. Cameronに代わってPhilippé Wynneを迎え、Atlanticへ移籍。本作はその再編成後の最初のアルバムで、グループの方向性が明確に切り替わった時期の記録でもある。
モータウン期のSpinnersが持っていたコーラス主体のまとまりに、Thom Bellの制作が加わることで、リズムの置き方やフレーズの間合いがより細かく整理されている。フィラデルフィア・ソウルの文脈にある作品だが、単に洗練された伴奏に乗るだけではなく、声の重なりそのものが楽曲の推進力になっている点が印象に残る。
「I'll Be Around」を中心にしたヒット群
このアルバムを語るうえで外せないのが「I'll Be Around」。もともとはシングルのB面だったが、ラジオDJが先に反応したことでA面が入れ替えられ、結果としてR&Bチャート1位、ポップ・チャートでも上位に入る大ヒットになった。100万枚を超えるミリオンセラーでもあり、SpinnersのAtlantic期を象徴する代表曲として定着している。
さらに「Could It Be I'm Falling in Love」「One of a Kind (Love Affair)」「Ghetto Child」「How Could I Let You Get Away」といった曲が並び、アルバム全体がシングルの強さで支えられている。とくに「Could It Be I'm Falling in Love」は、メロディの運びとコーラスの入り方が非常に整っていて、Thom Bell制作の特徴がよく出ている。派手な展開よりも、歌の流れを崩さずに押し切る構成。
音の印象と当時のソウルの文脈
実際に聴くと、ベースやドラムの刻みは前に出すぎず、各パートの配置がかなり計算されている印象がある。Philippé Wynneのリードは、強く押す場面と、少し引いてフレーズを置く場面の差がはっきりしていて、そこにグループのコーラスがかぶさることで、曲の中に小さな山と谷が作られていく。フィラデルフィア・ソウルらしい滑らかさはあるが、感触としてはかなり実務的で、歌と伴奏の役割分担が明快だ。
同時代のソウル作品と比べると、Motownの量産型ヒット・システムとは少し違い、曲ごとの輪郭を丁寧に作り込む方向に寄っている。The DelfonicsやThe Stylistics、同じくThom Bellと関わったアーティスト群と並べて語られることが多いのも自然で、Spinnersはその中でもグループの声のまとまりと、Philippé Wynneの存在感で独自の位置を築いている。
アルバムとしての位置づけ
『Spinners』は、グループにとって単なる移籍第一弾ではなく、以後のAtlantic期を決定づけた出発点でもある。ここでの成功を受けて、Spinnersは1970年代を通じてR&Bチャート上位の常連になっていく。本作はBillboard 200で最高14位、R&Bアルバム・チャートでは1位を記録しており、グループのアルバム作品としてもひとつの到達点を示している。
収録曲の並びを追うと、ヒット曲だけを切り出しても成立する強さがある一方で、アルバム全体としても流れが途切れにくい。Atlantic移籍直後の緊張感と、ソウル・グループとしての成熟が同居した内容で、モータウン時代から次の段階へ進んだSpinnersの姿がそのまま入っている。1973年のソウル・アルバムとして、楽曲、演奏、歌の役割がきれいに揃った一枚。
オリジナル盤について
この1973年のUSオリジナル盤は、AtlanticのSD 7256番で出た初出タイトル。Atlanticのこの時期のリリースらしく、レーベル表記やプレスの違いが見られることがあり、クレジット面では「PR」サフィックスが使われている。内容面では、後年の再発盤と比べても、収録曲そのものはこの時点で完成しているため、まずは1973年当時のSpinnersの転換点をそのまま封じ込めた作品として捉えるのが自然だ。
トラックリスト
- A1 Just Can't Get You Out Of My Mind 3:42
- A2 Just You And Me Baby 2:56
- A3 Don't Let The Green Grass Fool You 4:01
- A4 I Could Never (Repay Your Love) 6:56
- A5 I'll Be Around 3:10
- B1 One Of A Kind (Love Affair) 3:31
- B2 We Belong Together 4:12
- B3 Ghetto Child 3:47
- B4 How Could I Let You Get Away 3:46
- B5 Could It Be I'm Falling In Love 4:13