Depeche Mode - Songs Of Faith And Devotion (1993)
Depeche Mode『Songs Of Faith And Devotion』(1993) レビュー
Depeche Modeの『Songs Of Faith And Devotion』は、1993年にUKのMuteから出た8作目のスタジオ・アルバムである。前作『Violator』で世界的な成功を収めた直後の作品で、バンドのキャリアの中でも節目の一枚として扱われてきた。エレクトロニック・ポップの枠に収まりきらない方向へ進みながら、ロック、ファンク、ゴスペルの要素を取り込み、当時のDepeche Modeの緊張感をそのまま音にしたような内容になっている。
制作環境と作品の空気
本作はマドリードとハンブルク、そしてロンドンで録音・ミックスされている。特にマドリードでは、邸宅を借り切ってスタジオ化し、メンバーが寝泊まりしながら制作を進めたことが知られている。こうした環境の影響もあってか、アルバム全体には閉じた空間で熱をため込むような感触がある。整然としたシンセ・ポップというより、演奏の生々しさや音の摩擦が前に出る作りだ。
実際に聴くと、打ち込みの精密さよりも、ギターの歪み、リズムのうねり、ボーカルの圧が印象に残る。Depeche Modeの作品としては珍しくない要素だが、このアルバムではそれらがかなり強く表に出ている。電子音主体のイメージで聴くと、まず音の厚みの違いに気づくはずだ。
収録曲の核
代表曲としてまず挙がるのが「I Feel You」で、冒頭から歪んだギターとタイトなビートが前面に出る。アルバムの入口としてわかりやすく、以後の方向性をはっきり示す曲である。続く「Walking in My Shoes」も、重たいリズムとメロディの流れが強く、シングルとしての存在感が大きい。
「Condemnation」は特に異色で、ゴスペル色の強いアレンジが耳に残る。女性コーラスを導入したことで、Depeche Modeの中でもかなり開いた響きになっている。さらに「Judas」「Mercy In You」などでは、犠牲、信仰、贖罪といった語がそのまま主題になり、タイトルの通り内省的な世界が続く。言葉の重さと演奏の圧が、最後まで切れずに並走している。
この時期のDepeche Modeの位置づけ
『Violator』の大成功のあとに出た本作は、単なる延長線上のアルバムではない。むしろ、バンドが次の段階へ入るために、既存の枠を自分たちで壊しにいった作品として見られている。制作過程はかなり険しく、メンバー間の対立も深まった。その緊張はツアー期間にも持ち越され、結果としてAlan Wilderが脱退する流れにつながる。彼にとっては最後の参加作でもある。
商業的には強い結果を残していて、UKアルバムチャート、USビルボード200の両方で1位を記録した。Depeche Modeにとって初の両チャート首位作であり、世界規模での存在感をさらに固めた一枚でもある。
同時代とのつながり
1993年という年を考えると、オルタナティヴ・ロックやグランジが強い時期である。本作が「デペッシュ・モードのグランジ・アルバム」と呼ばれることがあるのも、その空気と無関係ではない。とはいえ、単純に流行へ寄せた作品ではなく、もともと持っていた冷たい電子感覚に、バンドの肉体性を強く重ねた結果として聴こえる。Nine Inch Nailsや当時のオルタナ勢と並べて語られることもあるが、Depeche Modeらしいメロディの組み立ては最後まで崩れていない。
レコード盤としては、UK盤のMute STUMM 106。オリジナル盤は歌詞インナー付きで、Direct Metal Mastering仕様、表記上も1993年の空気をそのまま持っている。音の輪郭がはっきりした盤で、この作品の硬質な質感と相性がいい。Depeche Modeのディスコグラフィーの中でも、ポップさと重さ、信仰と欲望、整合と崩壊が同じ面に並ぶ、かなり特徴の強いアルバムである。
トラックリスト
- A1 I Feel You 4:35
- A2 Walking In My Shoes 5:26
- A3 Condemnation 3:29
- A4 Mercy In You 4:21
- A5 Judas 5:13
- B1 In Your Room 6:23
- B2 Get Right With Me 3:52
- B3 Rush 4:41
- B4 One Caress 3:34
- B5 Higher Love 5:56