Dire Straits - Love Over Gold (1982)
Dire Straits『Love Over Gold』
1982年9月にリリースされたDire Straitsの通算4作目のスタジオ・アルバム。前作『Making Movies』で提示した映画的ストーリーテリングをさらに推し進め、全5曲という長尺・大作志向で制作された実験的野心作である。ラジオ向けの3分ポップスが主流化しつつあった80年代初頭の潮流に背を向け、壮大な組曲と静謐なドラマツルギーを追求した名盤として知られる。
制作背景と録音の経緯
レコーディングは1982年3月から6月にかけてニューヨークの伝説的スタジオ「Power Station」で行われた。マーク・ノップラーが初めて単独プロデューサーを務め、エンジニアにニール・ドーフスマン(Neil Dorfsman)、マスタリングにMasterdiskのボブ・ラドウィックを起用。極限まで広いダイナミックレンジと研ぎ澄まされた静寂を活かした、極めて緻密なハイファイ音響設計が施された。
本作は結成時からのオリジナル・ドラマーであるピック・ウィザースが参加した最後のアルバムでもあり、レコーディング完了直後に脱退(後任はテリー・ウィリアムズ)。キーボードのアラン・クラークが本格的にサウンドの中核を担ったほか、ジャズ・ヴィブラフォン/マリンバの名手マイク・マイニエリがゲスト参加し、「Private Investigations」やタイトル曲で幻想的な余韻をもたらしている。
ジャケットは夜空の闇を切り裂く一本の青い稲妻を捉えたアラン・ローベルの写真が採用された。
時代の文脈と収録曲
MTVの開局とともにキャッチーなシンセポップがチャートを席巻していた時代において、本作はあえて長尺の楽曲と文学的な歌詞世界を真正面から提示した。ノップラーの映画音楽作家としての才能と指弾き(フィンガーピッキング)による卓越したギター・ワークが結実し、後の世界的メガヒット作『Brothers in Arms』(1985年)へと至る決定的な跳躍台となった。
オープニングを飾る「Telegraph Road」(14分20秒)は、ノップラーがミシガン州デトロイトを通過した際に着想を得た大作。一本の道の建設から米国の開拓、産業化の繁栄、そして衰退に至る歴史を描き、静かなピアノとアコースティック・ギターから怒涛のエレキギター・ソロへと昇りつめるクライマックスはバンド史上最高峰のドラマツルギーを誇る。
先行シングル「Private Investigations」(7分00秒)は、レイモンド・チャンドラーの小説を想起させる私立探偵の独白、ガットギター、不穏な足音、そしてマイク・マイニエリのマリンバが一体となったノワール劇のような名曲。シングル向けではない長尺かつ静寂を基調とした構成でありながら、全英シングルチャート2位を記録する異例の大ヒットとなった。B面の「Industrial Disease」は、80年代英国の経済低迷や労働争議、産業社会の病理をブラックユーモアを交えて痛烈に風刺した軽快なロック・ナンバーである。
評価とチャート
『Love Over Gold』は全英アルバムチャートで初登場1位を記録し、4週連続で首位を独走。オランダ、ノルウェー、オーストリア、オーストラリアなど欧州・豪州各国でも1位を獲得した。演奏の卓越した表現力と、針の落ちる音まで聴こえるようなオーディオファイル級の録音クオリティは、現在もロック史上に輝くハイファイ録音の金字塔としてオーディオ・ファンや批評家から絶賛されている。
トラックリスト
- A1 Telegraph Road 14:20
- A2 Private Investigations 7:00
- B1 Industrial Disease 5:50
- B2 Love Over Gold 6:15
- B3 It Never Rains 7:55
動画プレイリスト
このアーティストについて
Dire Straits(ダイアー・ストレイツ)は、稀代のギタリスト/ソングライターであるマーク・ノップラーを中心に、1977年にロンドンで結成されたイギリ...
Dire Straits のプロフィール・作品一覧Dire Straits の他のレビュー