Dulcimer - Dulcimer (1971)
Dulcimer 1971

Dulcimer - Dulcimer (1971)

Rock Pop Prog Rock

Dulcimer『Dulcimer』──英国フォーク・プログレの異色作を、1989年UK盤で聴く

英国のトリオ、Dulcimerが1971年に残した唯一のオリジナルLPとして知られる作品が、この『Dulcimer』。盤としては1989年にSee For Miles Records Ltd.からUKで出た再発盤で、オリジナルは別タイトルの『And I Turned as I Had Turned as a Boy』として発表された作品だ。ラベル表記やスパインは短く『Dulcimer』となっているが、ジャケットには元のタイトルも入っている。作品の輪郭を先に押さえるなら、アコースティック主体のフォークに、プログレッシブ・ロックの構成感や実験性が混ざった一枚で、英国70年代初頭の空気がよく残っている。

作品の位置づけ

DulcimerはDave Eaves、Pete Hodge、Jem Northの3人によるグループで、このLPが事実上の代表作になっている。バンドの活動全体を見ても、まずこのアルバムが核にある。1971年という時期は、英国ではフォーク・ロックやアコースティック志向のプログレが広がっていた頃で、PentangleやFairport Conventionの流れ、あるいはJethro Tullのようにフォークの語法をロックへ持ち込む動きと地続きにある。Dulcimerはその中でも、より小編成で、曲の輪郭を崩しすぎずに、語りや間合いを含んだ独特の進め方をしている。

制作はLansdowne Studio、プロデュースはLarry Page。後年の証言では、かなり短い期間でほぼライヴ一発録りのような形で仕上がったとされ、準備段階の演奏がそのまま本番になったというエピソードが残る。こうした背景は、音の細部に人工的な整え方が少ないことにもつながっている。録音物としての完成度だけでなく、演奏の呼吸そのものが前に出るタイプの作品だ。

聴こえてくるもの

実際に耳を通すと、まず印象に残るのはアコースティック楽器の近さ。派手なエレクトリック・ギターで押し切るのではなく、弦の鳴り、歌の置き方、曲の切り替わりで引っ張る。フォークの素朴さがベースにありながら、単純な弾き語りには収まらない。リズムの組み方や曲の展開に、プログレ寄りの感覚がしっかりある。

この作品の特異性を強めているのが、Richard Toddの参加だ。朗読者として加わり、音楽の合間に言葉の層を差し込む。そのため、単なる楽曲集というより、曲と語りが並ぶ小さな舞台作品のような印象もある。歌と朗読が交互に出てくることで、楽曲の情景がはっきり浮かび、同時に少し距離を置いた視点も生まれる。英国フォークの中でも、こうした構成はかなり目立つ。

1971年作としての意味

当時の評価は比較的好意的だったとされる一方で、商業的には大きな成功を残したわけではない。チャート上の実績よりも、のちに再評価されるタイプのアルバムで、レーベル系資料や後年の紹介でも「よく練られた異色作」として扱われている。70年代初頭の英国には、同じくアコースティックを軸にしながらも、従来のフォークに収まらない試みをする作品がいくつもあるが、この盤もその文脈で聴くと輪郭がつかみやすい。

一方で、楽器の不調や修繕の話まで残っているように、制作環境はかなり手作りだった。そうした制約が、かえって素朴で少しひんやりした響きにつながっている。音が過剰に磨かれていないぶん、演奏の手触りがそのまま残る。フォークの親密さと、プログレの構成感が同居するこの感じは、英国のアンダーグラウンドな70年代作品を追うときに、かなり印象に残る部類だ。

1989年UK再発盤としての見どころ

この1989年盤はSee For Miles Records Ltd.のUKリイシューで、オリジナル期の空気を後追いで聴ける盤になる。表記上はタイトルが簡略化されているが、ジャケットに元の長いタイトルが残る点が面白い。70年代初頭のオリジナルLPをそのまま追体験するというより、後年の再発で作品の輪郭を整理して提示した形に近い。See For Milesは英国の再発レーベルとして、埋もれたロックやフォークの再提示を多く手がけた会社で、この盤もその流れに置ける。

Dulcimerのこの一枚は、派手な代表曲で押すタイプではない。むしろ、アルバム全体の流れ、語りの挿入、アコースティックの間合い、短期間で録られた生々しさがまとまって残っていることに意味がある。英国フォークとプログレの境目を探るときに、名前が挙がる理由もそこにある。70年代初頭の実験が、後年の再発で改めて輪郭を持った作品。

トラックリスト

  1. A1 Sonnet To The Fall
  2. A2 Pilgrim From The City
  3. A3 Morman's Casket
  4. A4 Ghost Of The Wandering Minstrel Boy
  5. A5 Gloucester City
  6. A6 Starlight
  7. B1 Caravan
  8. B2 Lisa's Song
  9. B3 Something That You Loved
  10. B4 Fruit Of The Musical Tree
  11. B5 While It Lasted
  12. B6 Suzanne

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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