High Tide - Precious Cargo (1989)
High Tide / Precious Cargo(1989, Italy, Cobra Records CR 019)
High Tideの『Precious Cargo』は、1989年にイタリアのCobra Recordsから出た作品だが、内容の核は1970年の録音にある。つまり、当時の新録音というより、バンド初期の未発表セッションを後年に掘り起こした発掘盤として捉えるのが自然だ。High Tideは1969年にロンドンで結成された英ロック・バンドで、Tony HillのギターとSimon Houseのヴァイオリンを軸に、サイケデリックな感触と重量感のある演奏を結びつけたことで知られる。『Precious Cargo』は、その初期High Tideの空気をまとった音源をまとまった形で聴ける一枚として位置づけられる。
1970年録音のスタジオ・ジャムを収めた作品
クレジット上では、1970年10月から11月にかけてイギリス・ドーセット州プッドルタウンでライブ・イン・スタジオの形で録音された素材とされている。収録内容は、きっちり作り込まれた楽曲というより、演奏の流れを重視したセッション色の強いもの。後年の再発では「Live jam 1970」と説明されることもあり、実際に聴くとその性格はよく伝わる。曲の輪郭を保ちながらも、展開は固定されすぎておらず、バンドがその場で音を組み立てていく手触りが前に出る。
High Tideの初期2作にある硬質な押し出しと比べると、この『Precious Cargo』はより自由度の高い演奏が目立つ。Tony Hillのギターは鋭く、Simon Houseのヴァイオリンは旋律だけでなく音のうねりを作る役割も担っている。ベースとドラムも単なる伴奏に留まらず、リフの土台というより、即興の流れを支える推進力として機能している。録音の粗さや未完成感を含んだまま、その場の緊張感が残る音源だ。
High Tideの歴史の中での位置
High Tideは1969年結成後、1970年にはいったん活動を止め、その後1976年、1979年、さらに1989年から1990年にも動きがあった。『Precious Cargo』が出た1989年は、そうした再始動の流れとも重なる時期だが、作品の中身はあくまで1970年のアーカイブである。結果としてこの盤は、再結成時の新作というより、初期High Tideの可能性を後年に示した記録として読まれている。
High Tideの名を語るうえでは、デビュー作『Sea Shanties』や2作目『High Tide』がよく参照されるが、『Precious Cargo』はその延長線上にありながら、よりラフで、よりセッション的な側面が強い。きっちりした代表曲を押し出すタイプの作品ではなく、バンドの演奏スタイルや空気感をそのまま残した資料性の高い内容だ。High Tideが持っていたサイケデリック・ロックとハードな演奏の接点が、編集された完成品ではなく、動いている途中の姿で聴こえてくる。
1989年盤としての意味
1989年のイタリア盤は、こうした未発表音源を正式に流通させた点に意味がある。オリジナル録音から19年を経ての初出であり、しかもイタリアのCobra Recordsからのリリースという点も、いかにも発掘盤らしい経路だ。Cobra Recordsは1980年代後半にラ・スペツィアで設立されたレーベルで、同名の別レーベルとは区別して見る必要がある。
商業的なヒット作として広く流通した作品ではなく、プログレッシブ・ロックや英サイケの文脈でHigh Tideを追う人たちにとっての重要盤という性格が強い。音楽史の中では、完成されたスタジオ作というより、バンドの未公開断面を示す記録として残る一枚。High Tideの持ち味である、ギターとヴァイオリンがせめぎ合う独特の編成、その緊張が1970年の段階ですでに濃く出ていたことを確かめられる作品でもある。
トラックリスト
- A1 Blood Lagoon 6:02
- A2 Quest 5:47
- A3 Inflight 5:48
- A4 Ice Age 3:32
- B1 Movie Madness 4:10
- B2 Exploration 9:08
- B3 Rock Me On Your Wave 7:45