El Chicano - Viva Tirado (1970)
El Chicano『Viva Tirado』
イースト・ロサンゼルスのチカーノ・コミュニティから登場したEl Chicanoが、1970年にKapp Recordsから発表した金字塔的デビュー・アルバム。前身バンド「The VIP’s」時代から演奏していた「Viva Tirado」をタイトルに据え、ラテン・ロック/ブラウン・アイド・ソウルの力強い潮流を全米に知らしめた記念碑的作品である。
制作背景と「Viva Tirado」の誕生
もともと「Viva Tirado」は、彼らが地元クラブのステージの合間にジャム演奏していた楽曲だった。原曲は黒人ジャズ・トランペッター/作編曲家のジェラルド・ウィルソン(Gerald Wilson)が1960年代初頭に作曲したもので、メキシコの名闘牛士ホセ・ラモン・ティラードに捧げられたジャズ・ナンバーである。この演奏の持つ独特のグルーヴを名プロデューサーのエディ・デイヴィスが見出し、バンド名をメキシコ系アメリカ人の誇りを掲げた「El Chicano」へと改めるよう助言した。
自主制作レーベルGordoからシングルとして発表された「Viva Tirado」は、ロサンゼルスの主要ラジオ局でヘビーローテーションされ、9週連続1位という驚異的なローカル・ヒットを記録。その熱狂を受けてメジャー配給権を獲得したKapp Recordsから本作アルバムが全米へと届けられた。
時代の文脈とチカーノ運動
1960年代末から1970年代初頭のアメリカでは、公民権運動の高まりとともにメキシコ系住民の権利とアイデンティティ確立を求める「チカーノ運動(Chicano Movement)」が最高潮に達していた。同時期にサンフランシスコからサンタナが登場しラテン・ロックが世界的ブームを巻き起こす中、El Chicanoはイースト・ロサンゼルスのストリートの熱気をそのまま体現した。黒人ジャズの名曲をラテン・ソウル/ロックとして再定義した本作は、黒人とラティーノの音楽的・文化的な連帯を象徴する歴史的意義も担っている。
サウンドと聴きどころ
ゆったりと波打つ魅惑的なスロー・ファンクのビートに、ボビー・エスピノーサ(Bobby Espinosa)の艶やかで哀愁を帯びたハモンド・オルガンと、ミッキー・レスプロン(Mickey Lespron)のブルージーなギター、熱狂的なラテン・パーカッションが重なり合うアンサンブルが絶品だ。
アルバム全体でも、ハービー・ハンコック「Cantaloupe Island」やマーティン・デニー「Quiet Village」、ビートルズ「Eleanor Rigby」、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズ「Hurt So Bad」といったジャズ、エキゾチカ、ソウル、ポップスの名曲群を、イースト・L.A.流のラテン・ジャズ・ロックへと大胆に換骨奪胎した充実の演奏が並ぶ。
後世への影響とローライダー文化
「Viva Tirado」はイースト・ロサンゼルスのストリートを象徴するアンセムとなり、クルージングとともに愛されるローライダー(Lowrider)カルチャーの永遠のクラシックとなった。シングルは全米Billboard Hot 100で28位、R&Bチャートで20位を記録し、アルバムもゴールド・ディスクを獲得した。
さらに1990年には、チカーノ・ラップのパイオニアであるキッド・フロスト(Kid Frost)が代表曲「La Raza」でこのオルガン・リフを大々的にサンプリング。世代を超えてヒップホップやチカーノ・カルチャーの聖典として歌い継がれている。
トラックリスト
- A1 Cantaloupe Island 6:05
- A2 Quiet Village 5:37
- A3 The Look Of Love 2:04
- A4 Eleanor Rigby 5:35
- B1 Viva Tirado 4:53
- B2 Sometimes I Feel Like A Motherless Child 4:10
- B3 Hurt So Bad 4:35
- B4 Light My Fire 0:25
- B5 Coming Home Baby 5:25