Eugene Wilde - Eugene Wilde (1984)
Eugene Wilde / Eugene Wilde(1984)
ユージン・ワイルドのデビュー作となるセルフタイトル・アルバム。1984年に米フィリー・ワールド・レコードからリリースされた本作は、ソウルを基盤に、当時のダンス・ミュージック寄りの感触を強く持った1枚である。フィラデルフィア発のレーベルらしく、80年代前半のR&Bとディスコ以後のクラブ感覚が、かなりわかりやすい形でまとまっている。
ユージン・ワイルドは、フロリダ州ウェストパームビーチ生まれのR&Bシンガー/ソングライター。本名はロナルド・ブルームフィールドで、「ワイルド」という芸名はニューヨークのクラブ「ワイルドフラワーズ」の看板に着想を得たものとされる。地元クラブで家族グループ「ラ・ヴォヤージュ」の一員として活動を始め、その後も改名を重ねながら歌い続けた経歴を持つ。ソロ名義のこのアルバムは、そうした下積みの集大成として出てきた作品で、彼の歌い方やメロディの運びが前面に出た内容になっている。
代表曲「Gotta Get You Home Tonight」を軸にしたアルバム
本作を語るうえで外せないのが、先行シングル「Gotta Get You Home Tonight」。ユージン・ワイルド自身も作曲に関わったこの曲は、全米R&Bチャートで1週間の1位を記録したヒット曲で、アルバム全体の印象を決定づけている。リズムは軽快で、シンセの輪郭がはっきりしており、ベースラインも粘りのある作り。80年代前半のR&Bが持っていた、ディスコからソウル、そしてシンセ・ポップへ接続していく流れが、そのまま入っている。
この曲が強いのは、サビの押しの強さだけでなく、歌の置き方にもある。派手に跳ねるのではなく、フレーズを丁寧に積み上げていくタイプで、クラブ向けのビートの上に、ソウル歌手としての歌い回しがしっかり残っている。シングルの勢いが本作を押し上げ、アルバムはBillboard 200で97位、R&Bアルバムチャートで14位まで到達した。
80年代フィラデルフィアR&Bの文脈
レーベルのフィリー・ワールド・レコードは、1982年にピーター・ペルロによって設立されたフィラデルフィア拠点のダンス系レーベルで、アルファ・インターナショナル・スタジオズの傘下として動いていた。本作もその流れに乗る作品で、いわゆる70年代のフィリー・ソウルの延長線というより、80年代のクラブ仕様に寄った鳴りが印象に残る。ストリングスで押すタイプではなく、シンセとリズムの明快さで引っ張る作り。
同時代の文脈で見ると、SOSバンド周辺のプロダクション感、あるいは80年代前半のアーバン・ソウルに連なる感触がある。収録曲「Just Be Good To Me」は、ジミー・ジャムとテリー・ルイスが手がけたSOSバンドの1983年曲のカヴァーで、原曲の持つ洗練されたダンス感を別の角度からなぞっている。こうした選曲からも、当時のR&Bがクラブとラジオの両方を意識していた空気が見える。
アルバムとしての位置づけ
この作品は、ユージン・ワイルドにとってソロ・シンガーとしての出発点にあたる。のちに彼は歌手以上にソングライターとして長く活動し、バックストリート・ボーイズ「I'll Never Break Your Heart」、ブリトニー・スピアーズ「Dear Diary」、ヴィクトリア・ベッカム「I Wish」などでも知られるようになるが、その前段階にある本作では、まず歌手としての輪郭がはっきりしている。声の持ち味と、ダンス・トラックの中でのフレーズ運びが、すでに整理されている印象。
アルバム全体は、ヒット曲の存在感が強い一方で、完全に一曲頼みというより、80年代R&Bの標準的なフォーマットをきちんと押さえた作りになっている。ソウルの歌心、ファンクのリズム感、シンセ・ポップ由来の音の輪郭が同居していて、当時のアメリカ東海岸のアーバン・ダンス・ミュージックを追ううえで外しにくい1枚。デビュー作らしい勢いと、時代の音を素直に反映した録音が、そのまま残っている。
トラックリスト
- A1 Lately 6:48
- A2 Personality 3:38
- A3 Let Her Feel It 6:25
- A4 Gold 5:30
- B1 Gotta Get You Home Tonight 5:17
- B2 Chey Chey Kule 3:31
- B3 Rainbow 3:40
- B4 Just Be Good To Me 4:36