Gene Russell - New Direction (1971)
Gene Russell『New Direction』について
Gene Russellの『New Direction』は、1971年にUSのBlack Jazz Recordsから登場した作品です。レーベルの初期を代表する一枚として見ていくと、このアルバムは単なるピアノ・ジャズの枠に収まらず、当時のソウル・ジャズやスピリチュアル・ジャズの空気をまといながら、Black Jazzらしい輪郭をはっきり示している作品だと受け取れます。Gene Russellはピアニストでありプロデューサーでもあり、Black Jazz Recordsの共同設立者でもある人物。レーベルの立ち上げと同時代に出たこのアルバムには、彼自身の美意識がそのまま反映されている印象があります。
Black Jazz Recordsは1971年にオークランドで始まり、黒人ミュージシャンを前面に押し出しながら、より政治的でスピリチュアルな方向性を打ち出したレーベルとして知られます。その中で『New Direction』は、レーベルの方向性を言葉どおりに示すタイトルでもあり、設立初期の空気をそのまま閉じ込めたような位置づけの作品です。Gene Russell自身は1932年ロサンゼルス生まれ、1981年没。活動歴の長いジャズ・キーボーディストとして、そして制作面でもレーベルを支えた存在として記憶される人です。
作品の輪郭
このアルバムは、ピアノを中心に据えながら、リズムの推進力と和声の流れを重視した作りが目立ちます。演奏全体には、派手に押し出すよりも、音の置き方や間の取り方で聴かせる姿勢が感じられます。ソウル・ジャズという分類に収まる要素は確かにあるものの、単純にグルーヴだけを強調するタイプではなく、ジャズらしい展開やフレーズ運びもきちんと残しているところが特徴です。
実際に耳を向けると、Gene Russellのピアノは、コードを厚く鳴らして場を支える場面と、右手で軽く流れを作る場面の切り替えがはっきりしているように聴こえます。強く前へ出るというより、バンド全体の呼吸を整えながら進めるタイプの演奏で、Black Jazzのカタログに並ぶ他作品と比べても、洗練された落ち着きがある一枚という印象です。
Black Jazz初期作品としての位置づけ
1971年という年は、Black Jazz Recordsにとって出発点の時期です。その意味で『New Direction』は、レーベルの理念を音で示す役割を担っていたと見てよさそうです。Black Jazzの作品群には、ファンキーな感触、自由度の高い展開、宗教的・精神的な気配が共存するものが多くありますが、このアルバムもそうした流れの中に置くと理解しやすいです。Gene Russellはレーベルの共同設立者でもあるため、単なる所属アーティストというより、Black Jazzの基準そのものを形にした人物の一人といえます。
同時代の文脈で見ると、ソウル・ジャズを基盤にしながら、より黒人音楽としてのアイデンティティや精神性を前に出した作品群と並べて語られることが多いタイプです。派手なクロスオーバー路線ではなく、ジャズの語法を保ちながら、当時の空気をしっかり取り込んでいる点が聴きどころになっています。
注目したいポイント
この作品でまず耳に残るのは、Gene Russellのピアノが作るリズムの置き方です。左手の支えがしっかりしていて、そこに軽快なフレーズが重なることで、曲の推進力が自然に立ち上がっていきます。ソウル・ジャズという言葉から想像される分かりやすいノリだけではなく、演奏の中にきちんとした緊張感があるのが面白いところです。
また、バンド全体のまとまりにも注目したいです。個々のソロを目立たせるより、アンサンブルの中で音がどう受け渡されるかが丁寧に組まれていて、アルバム全体の流れに統一感があります。Black Jazzの作品に共通する、黒人ジャズの現在形を提示するような姿勢が、この一枚でもはっきり感じられます。
音の印象
録音は、過度に磨き込まれた質感というより、演奏の芯が見えやすいタイプです。ピアノ、ベース、ドラムの関係が見通しやすく、グルーヴの組み立てが追いやすいので、アルバムとしての流れをつかみやすいです。派手な装飾よりも、楽器同士の会話で聴かせる構成。そこにGene Russellらしい、プロデューサー的な感覚もにじんでいるように思えます。
Black Jazz Recordsの初期カタログの中で、『New Direction』はレーベルの方向性を端的に示す作品として位置づけやすいです。Gene Russellの演奏家としての顔と、レーベルを立ち上げた当事者としての顔、その両方が重なったアルバム。1971年のUSオリジナル盤として聴くと、当時の空気とレーベルの意図がそのまま残っている一枚として受け取れます。
トラックリスト
- A1 Black Orchid 3:13
- A2 Hitting The Jug 4:42
- A3 Willow Weep For Me 4:58
- A4 Listen Here 3:15
- B1 On Green Dolphin Street 5:02
- B2 Silver's Serenade 4:54
- B3 My Cherie Amour 3:01
- B4 Making Bread 3:21
動画
- Gene Russell – Black Orchid – New Direction (Black Jazz)
- Gene Russell – Listen Here – New Direction (Eddie Harris / Black Jazz)
- Hitting the Jug
- Willow Weep for Me
- On Green Dolphin Street
- Silver's Serenade
- My Cherie Amour
- Making Bread