Hailu Mergia And The Walias - Tche Belew (1977)
Hailu Mergia And The Walias『Tche Belew』(1977)
エチオピアが生んだ鍵盤奏者ハイル・メルギア(Hailu Mergia)と、首都アディスアベバの名門ハウス・バンドであるワリアス・バンド(The Walias Band)が1977年に残した不滅のエチオ・ジャズ/アフロ・ファンクの最高傑作。アリエブ・アブデラ・カイファ(Ali Abdella Kaifa)が主宰する独立レーベル「カイファ・レコーズ(Kaifa Records)」からリリースされた本作は、当時レコード・プレス工場が存在しなかったエチオピアの国内事情によりギリシャで製造された(規格番号:LPKF 45)。エチオ・ジャズの生みの親ムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)がヴィブラフォンで客演し、名ピアニスト兼作編曲家のギルマ・ベエネ(Girma Bèyènè)が参加した、東アフリカ音楽史上屈指のスーパー・セッションである。
制作背景:激動のホテル・ラウンジから生まれたグルーヴ
ワリアス・バンドは、1970年代初頭からアディスアベバの高級ホテル「ヒルトン・アディス」のレジデント・バンドとして夜な夜なステージに立ち、外国人VIPや現地の音楽ファンを熱狂させていた。1974年にハイレ・セラシエ皇帝が失脚し、メンギスツ率いる過酷な軍事政権デルグ(Derg)が台頭して夜間外出禁止令が発令される中、治外法権的なホテルのラウンジはミュージシャンたちが自由な表現を追求できる唯一のシェルターであった。
検閲を避けるため、ヴォーカルを排して全編インストゥルメンタルで録音された本作は、制約の中で研ぎ澄まされたミュージシャンたちの圧倒的な演奏力と知性が凝縮されている。ハイル・メルギアの波打つようなファルフィサ/ゴドウィン・オルガンやアナログ・シンセサイザー、ギルマ・ベエネのエレガントなピアノ、そしてムラトゥ・アスタトゥケが放つ神秘的なヴィブラフォンの響きが、妖艶なポリリズムと絡み合う。
作品の構成と聴きどころ
アルバムの白眉は、A面4曲目に配置されたギルマ・ベエネ作曲の「Musicawi Silt」だ。ワウ・ギターのカッティングと重厚なホーン隊、躍動するウォーキング・ベース、そしてエチオピア固有の五音音階(キネット)をベースにした哀愁の旋律が疾走するこの曲は、エチオ・ジャズの枠を超えて世界中のクラブ・DJやレアグルーヴ・リスナーを虜にした究極のキラー・ファンクである。
さらに、タイトル曲「Tche Belew」の重厚な催眠的グルーヴ、哀切漂う「Yemiasleks Fikir」、伝統的な歌謡を洗練されたインスト・ジャズへと昇華させた「Lomi Tera-tera」や「Wegene」に至るまで、全編を通じて地中海・中東・アフリカが交錯する唯一無二のオリエンタル・ファンクが展開する。
後世への影響と国際的再評価
発売当時は極めて限られた枚数しか流通しなかったため、半世紀近くにわたり幻のメガレア盤としてオークションで超高額取引されていた。しかし2010年代に入り、米国の発掘レーベル「Awesome Tapes From Africa」が正規リイシューと世界配給を実現したことで、その真価が世界中の音楽シーンに衝撃を与えた。
この再発を機に、ワシントンD.C.でタクシー運転手をしながら音楽活動を続けていたハイル・メルギアは劇的な国際的カムバックを果たし、世界中の主要ジャズ・フェスティバルに出演するに至った。エチオピアの過酷な歴史の狭間で生み出された奇跡の音楽遺産として、今なお世界中のリスナーに驚きと感動を与え続けている。
トラックリスト
- A1 Tche Belew
- A2 Yemiasleks Fikir
- A3 Yikirta Lemminalehu
- A4 Musicawi Silt
- A5 Lomi Tera-tera
- B1 Wegene
- B2 Ibakish Tarekigne
- B3 Birukane
- B4 Eti Gual Blenai
- B5 Yenuro Tesfa Alegne