Isaac Hayes - The Isaac Hayes Movement (1970)
Isaac Hayes 1970

Isaac Hayes - The Isaac Hayes Movement (1970)

Funk / Soul Soul

Isaac Hayes『The Isaac Hayes Movement』(1970)

Isaac Hayesが1970年に発表した『The Isaac Hayes Movement』は、前作『Hot Buttered Soul』で確立した長尺カバー中心の作りを、そのまま次の段階へ押し進めたアルバムだ。収録は全4曲。Jerry Butlerの「I Stand Accused」、Hayes自身の共作「One Big Unhappy Family」、Burt BacharachとHal Davidによる「I Just Don’t Know What To Do With Myself」、そしてThe Beatlesの「Something」という構成で、どの曲も原曲の骨格を残しながら、オーケストラ、リズム隊、ワウ・ギター、ホーン、ストリングスを重ねた大きな編成に作り替えられている。

Isaac Hayesは、Stax周辺のメンフィス・ソウルを語るうえで外せない人物だ。もともとは作曲家、アレンジャー、プロデューサーとして頭角を現し、ソロでは低く深い歌声と、曲の中でじわじわ展開していく構成で独自の存在感を作った。本作は、その個性がソロ作品としてまとまった時期の重要作にあたる。翌1971年の『Shaft』でさらに大きな成功をつかむ前段階としても位置づけやすい。

4曲だけで組み立てた大きなスケール

このアルバムの特徴は、曲数の少なさと演奏時間の長さにある。一般的なポップ・アルバムの感覚からすると、1曲ごとの情報量がかなり多い。特に「Something」は12分近い長尺で、原曲のメロディを素材にしながら、イントロから中盤、ソロ、再提示までを大きく引き延ばしていく。John Blairのバイオリン・ソロが入るあたりは、この作品の構築性をよく示している。単なるカバーではなく、楽曲を別の形へ組み替える作業そのものが前面に出ている。

「I Stand Accused」では、Jerry Butler時代のソウル・バラードを土台にしつつ、Hayesらしい間の取り方が効いている。歌い込むというより、フレーズの置き方で重さを作るタイプの演奏で、声の低音域が曲の中心に残る。「I Just Don’t Know What To Do With Myself」も同様で、元のポップ・ソングが持つ整った輪郭を保ったまま、演奏の厚みで別の表情に変えている。

「Something」の存在感

本作の代表曲としてまず挙がるのは、やはり「Something」だろう。George Harrison作のこの曲を、Hayesはシンプルなラブソングとしてではなく、オーケストラを含む大きな流れの中へ置いている。ワウ・ギターのうねり、サックスの入り方、ストリングスの伸び、そしてベースの粘りが重なって、原曲とはかなり違う重心になる。歌の出だしからサビまでを急がず進める構成で、曲の気配を少しずつ濃くしていく作り。

ビートルズの曲をソウルの編成でここまで拡張した例としても印象が強い。後年のクロスオーバー的なカバー解釈、あるいはシンフォニックなソウル・アレンジを語るときに、この演奏はよく参照される。

Staxの中での位置づけ

『The Isaac Hayes Movement』は、Staxのカタログの中でもかなり野心の大きい作品に入る。メンフィス・ソウルの基本形は、短く切れのあるバンド・サウンドにあるが、Hayesはそこに長い展開、オーケストラ的な厚み、ジャズに近い構成感を持ち込んだ。結果として、R&Bの枠に収まりながらも、アルバム全体の設計はかなり大きい。Billboardのポップ・アルバム・チャートで8位、R&Bとジャズの両チャートで1位を記録し、長く売れ続けたという事実も、この作りの強さを裏づけている。

同時代のソウルと比べると、曲の長さや編成の使い方において、通常のシングル志向とは違う方向を向いている。Curtis Mayfieldのように社会性や洗練を前に出す流れとも重なる部分はあるが、Hayesの場合は、より演奏時間そのものを使って曲を変形させる点が目立つ。のちのブラック・ミュージックにおける長尺グルーヴや、映画音楽的なスケール感にもつながる要素を、この時点でかなりはっきり示している。

US初期盤としての空気

今回のUS盤は1970年のオリジナル期に近い初出仕様で、当時の空気をそのまま閉じ込めた一枚として見やすい。EnterpriseレーベルはStax系の中でも、Hayesのような大きな音作りを受け止める器として機能していた。ジャケットや盤の質感も含め、70年代初頭のソウルが持っていた拡張感が強く出るタイプの作品だ。

『The Isaac Hayes Movement』は、Isaac Hayesのソロ表現が「歌うソウル」から「組み立てるソウル」へ広がっていく途中の記録として読める。長尺、編曲、低音ボーカル、そして既存曲の再構成。その要素がまとまって、1970年の時点でかなり独自の位置を占めているアルバムだ。

トラックリスト

  1. A1 I Stand Accused 11:30
  2. A2 One Big Unhappy Family 5:45
  3. B1 I Just Don't Know What To Do With Myself 7:00
  4. B2 Something 12:00

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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