Quincy Jones - You've Got It Bad Girl (1973)
Quincy Jones / You've Got It Bad Girl (1973)
クインシー・ジョーンズの『You've Got It Bad Girl』は、1973年にA&M Recordsから出た作品で、70年代前半のソウル/ファンクの空気をしっかり吸い込みながら、ジャズの編曲感覚と大編成の推進力を前面に出した一枚。クインシーは作曲家、編曲家、プロデューサーとして知られる人だが、この時期のソロ作では、そうした仕事で培った整理の仕方がそのまま音の流れに表れている。単なるジャズ盤でもなく、かといってポップ寄りに振り切った作品でもない、中間の温度を保ったアルバム。
この時期のクインシーは、1969年の『Walking in Space』以降に続く大編成ソウル・ジャズの路線を、より時代のファンク感覚へ寄せていった時期にいる。『You've Got It Bad Girl』はその流れの中でも、演奏者の顔ぶれがかなり濃い。ビル・ウィザース、ビリー・プレストン、スティーヴィー・ワンダー、ヴァレリー・シンプソン、ジョージ・デューク、ヒューバート・ロウズ、トゥーツ・シールマンスらが参加し、ジャズ畑とソウル畑の人材が同じテーブルについたような内容になっている。
収録曲と聴きどころ
冒頭の「Summer in the City」は、ラヴィン・スプーンフルの曲を下敷きにしながら、原曲の都市的な軽さをそのままなぞらず、オルガンやフェンダー・ローズを軸にした粘りのあるソウル・グルーヴへ組み替えている。ヴァレリー・シンプソンのヴォーカルが乗ることで、曲の輪郭がさらにくっきりする構成。原曲を知っていると、かなり大胆な変換。
「Superstition」は、この盤を語るうえで外せない1曲。スティーヴィー・ワンダー本人がハーモニカとヴォーカルで参加しており、ビル・ウィザースやビリー・プレストンのコーラスも加わる。原曲とほぼ同時期の録音という点も含めて、70年代初頭のブラック・ミュージックの現場感がそのまま残るトラック。ファンクの骨格を持ちながら、クインシーらしい整ったアレンジが入ることで、単独のヒット曲とは少し違う表情になる。
ディジー・ガレスピーの「Manteca」では、ボブ・ジェームスのエレクトリック・ピアノ、フィル・ウッズのアルト・サックスなどが前に出て、ラテン由来の推進力とジャズのソロ展開がぶつかる。クインシーが持っていたビッグバンド的な視点と、当時のクロスオーバー感覚が重なる場面でもある。
また、クインシー自身が手がけたテレビドラマ『Sanford and Son』のテーマ曲も収録されていて、彼の作曲家としての仕事がアルバムの中に自然に組み込まれている。サウンドトラック的な素材とアルバム用の楽曲が同居している点も、この時代のクインシーらしいまとまり方。
レーベルと盤の見どころ
オリジナルはUS盤A&M RecordsのSP-3041。ブラウン寄りのオーカー色のレーベルで、折りたたみ式の18×34インチのポスターが付属したコピーもあった。今回の盤については、A面ラベルの配置に初期仕様の違いが見られ、センター周りの表記が少し変則的。こうした細部は、同じタイトルでも初期プレスを見分ける手がかりになる。
録音はA&M Records、Sun West Studios、The Record Plant、The Burbank Studios、A&R Studiosと、ロサンゼルスとニューヨークの複数スタジオにまたがっている。制作規模の大きさがそのまま音の厚みに反映されていて、各パートが埋もれずに並ぶ感じがある。演奏の密度が高いのに、混雑した印象に寄りにくいのは、クインシーの編曲の整理力によるところが大きい。
位置づけ
『You've Got It Bad Girl』は、のちの『The Dude』(1981年)へつながるクインシーの脂の乗った時期の一枚として見られる。70年代前半のソウル、ファンク、ジャズの接点に立ちながら、ヒット曲のカバーとオリジナル、テレビテーマ、ジャズ・スタンダードを同じアルバムに置く構成が特徴的。ジャズの演奏力とポップ・ソウルの即効性、その両方を同時に扱える人だったことがよく出ている作品。
同時代の文脈で見ると、こうした大編成のソウル・ジャズは、フュージョンやクロスオーバーへ向かう流れとも接続している。クインシーの仕事は、後年のブラック・ミュージック全体にも広く影響を残すが、この盤にはその前段階の整理された熱量が詰まっている。演奏、選曲、ゲストの配置、その全部が1973年という年の空気をまとったアルバム。
トラックリスト
- A1 Summer In The City 4:05
- A2 Eyes Of Love 3:28
- Tribute To A.F. - RO 7:11
- A4 Love Theme From "The Getaway" 2:35
- A5 You've Got It Bad Girl 5:45
- B1 Superstition 4:40
- B2 Manteca 8:40
- B3 "Sanford & Son Theme" -NBC-TV (The Streetbeater) 3:05
- B4 Chump Change 3:19