Jan Akkerman = ヤン・アッカーマン - Tabernakel = 流浪の神殿 (1973)
Jan Akkerman『Tabernakel(流浪の神殿)』1973年作について
ヤン・アッカーマンは、オランダ出身のギタリストで、BrainboxやFocusで知られる人物だ。本作『Tabernakel(流浪の神殿)』は1973年に発表された作品で、フォーカスの中心人物として注目されていた時期の動きがそのまま反映された一枚でもある。ジャズ、ロック、そして古楽寄りの感覚を行き来してきたアッカーマンが、ここではエレクトリック・ギターの名手という顔だけでなく、より内省的で、器楽曲中心の構成に踏み込んでいる。プログレッシブ・ロックの文脈に置かれながらも、いわゆるバンドの一体感より、プレイヤー個人の視点が前に出たソロ作品として聴こえる。
中世音楽の要素をロックの側へ持ち込んだ内容
このアルバムの大きな特徴は、アッカーマンが自ら入手した中世リュートを弾きこなし、アルバムの中心に据えている点にある。収録曲の多くは16世紀イングランドの曲や、そこから派生した編曲、オリジナルで構成されており、ロック・ギタリストのソロ作というより、古楽に接近した器楽アルバムとしての性格が強い。ロックのリズムと古い旋律のあいだを行き来するつくりで、フォーカス時代の伸びやかなギター・フレーズとはかなり違う表情を見せる。
録音はニューヨークのAtlantic Recording Studiosで行われ、ティム・ボガート、カーマイン・アピス、レイ・ルーカスといったロック畑の演奏者が参加している。ここで面白いのは、強いリズム感を持つ面々が入っているのに、作品全体はむしろ室内楽的なまとまりを保っているところだ。派手なソロの応酬に寄らず、音数や間合いで聴かせる場面が多い。
聴きどころとして語られやすい曲
代表的な聴きどころとしては、「House of the King」の再解釈が挙げられる。フォーカスの楽曲として知られるこの曲を、ここでは別の角度から捉え直しており、アッカーマンの古楽志向がよく見える。もう一つの要所が長尺曲「Lammy」で、組曲的な展開の中に、リュートの音色とロックの推進力が同居する。日本盤のライナーでは細かな背景が補足されており、英語表記の曲順とあわせて聴くと、作品の構成がつかみやすい。
なお、この日本盤では見開きのマット仕上げジャケットに帯、そして和英併記のインサートが付属している。インサートには「Lammy」のサブトラックに日本語表記がないという記載もあり、輸入盤を日本向けに整えた当時の仕様がそのまま残っている。見開き内側に “Printed in Japan” の表記がある点も、1970年代初頭の国内プレス盤らしい要素だ。
アーティストにとっての位置づけ
『Tabernakel』は、フォーカスの看板ギタリストとしてのイメージから少し離れた地点で、アッカーマンの関心がどこに向いていたかを示す作品だ。1973年末にはメロディ・メーカー誌で“World’s Best Guitarist”に選ばれており、その注目の中で出たソロ作という意味でも存在感がある。電気ギターの技巧を前面に出すだけでなく、古い旋律や楽器の響きへ踏み込んだことが、このアルバムを単なる変化球で終わらせていない。
同時代のプログレッシブ・ロックには、クラシックや民俗音楽の要素を取り込む流れが広くあったが、アッカーマンのやり方は、その中でもかなり個人的だ。大きな編成で壮大さを作るのではなく、リュートの響きとギターの語り口で曲を組み立てる。フォーカスの「Hocus Pocus」のような即効性のある楽曲とは別方向に進みながら、彼の演奏家としての幅を示した一枚として見ておきたい。
日本盤1973年プレスとしての魅力
この日本盤は1973年リリースの初出盤で、AtlanticレーベルのP-8415A。オリジナル期の空気をそのまま持つプレスで、後年の再発盤とは時間の距離感が違う。ジャケット、帯、インサートの揃い方も含めて、当時の国内流通盤らしいまとまりがある。作品そのものが持つ古楽寄りの内容と、1970年代の日本盤仕様が重なって、アルバム全体に独特の落ち着いた印象を与えている。
『Tabernakel(流浪の神殿)』は、ヤン・アッカーマンの演奏技術だけでなく、選ぶ素材や音色の方向性まで含めて、彼の幅を記録した作品だ。フォーカスの延長線上にあるようでいて、実際にはかなり別の場所へ踏み出している。その距離感こそが、このアルバムの面白さになっている。
トラックリスト
- A1 Britannia By John Dowland = ジョン・ダウランドによるブリタニア 3:55
- A2 Coranto For Mrs. Murcott By Francis Pilkington = フランシス・ピルキントンによるミセス・マルコットに捧げるコランテ 1:26
- A3 The Earl Of Derby, His Galliard By John Dowland = ジョン・ダウランドによるダービー卿のガリアード 1:36
- A4 House Of The King = 王の館 2:23
- A5 A Galliard By Anthonie Holborne = アンソニー・ホルボーンによるガリアード 2:10
- A6 A Galliard By John Dowland = ジョン・ダウランドによるガリアード 1:31
- A7 A Pavan By Thomas Morley = トーマス・モーリーによるパバーヌ 3:03
- A8 Javeh = ユダヤ 3:22
- B1 A Fantasy By Laurencini Of Rome = ローマのローレンツィーニによるファンタジー 3:17
- Lammy = ラミー 14:06