Pink Floyd - Ummagumma (1969)
Pink Floyd『Ummagumma』(1969)レビュー
Pink Floydの『Ummagumma』は、1969年にリリースされた作品で、バンドにとってHarvest Recordsからの初リリースとしても位置づけられる一枚だ。ロンドン出身の彼らは、サイケデリック期から出発し、のちにプログレッシブ・ロックの代表格へと進んでいくが、この時期の作品には、その移行の途中にある緊張感と実験性がはっきり残っている。
このアルバムは、スタジオ録音とライヴ録音を組み合わせた構成で知られている。単なるベスト盤的な編集ではなく、バンドの当時の姿を複数の角度から見せる作りになっている点が特徴だ。Pink Floydの1960年代末を知るうえで、かなり重要な位置にある作品と言える。
作品の輪郭
『Ummagumma』を聴くとまず分かるのは、曲ごとのまとまりよりも、メンバーそれぞれの個性を前面に出そうとする意図だ。スタジオ・パートでは各メンバーが比較的自由に音を組み立てていて、統一されたバンド・サウンドというより、断片や試行の積み重ねとして進む場面が多い。一方でライヴ・パートでは、当時のPink Floydがどのように演奏を引き延ばし、音の厚みを作っていたかが見えやすい。
同時代の英国ロックを見渡すと、King Crimsonの登場前夜でもあり、YesやGenesisが本格的に台頭する直前でもある。そうした中でPink Floydは、演奏技術の誇示というより、音響や空気の変化を重視する方向に進んでいた。その流れの中にあるのが、この『Ummagumma』だ。
ライヴ・パートの聴きどころ
ライヴ・パートでまず触れたいのは「Astronomy Domine」だ。もともと初期Pink Floydを代表する曲だが、この時期の演奏では、曲の輪郭は保ちながらも、音の広がりがかなり大きい。ギターとキーボードが重なっていく場面では、スタジオ盤とは違う、演奏中の呼吸のようなものが前に出る。Syd Barrett期の名残を持つ楽曲としても重要で、バンドが初期のサイケデリックな感覚をどこまで引き延ばしていたかが分かる。
「Careful with That Axe, Eugene」も、この時期のPink Floydを語るうえで外しにくい1曲だ。言葉数の少ない構成の中で、低音のうねりと緊張の高まりを積み上げていくタイプの曲で、ライヴでは特にその性格が強くなる。演奏全体が大きなクライマックスへ向かうというより、音圧と間の取り方で引っ張るつくり。のちのプログレッシブ・ロックが好む長尺構成の先行例としても見やすい。
「Set the Controls for the Heart of the Sun」は、当時のPink Floydらしい反復と低速の推進力が印象に残る。リズムは落ち着いているのに、音の配置によってじわじわと密度が上がっていく。こうした演奏は、同時代のハードなロックとは違う方向にある。派手さよりも、持続する緊張感のほうが前に出る。
スタジオ・パートの特徴
スタジオ・パートは、メンバーごとの個別制作という形になっているのが大きい。ここでは、バンドとしての一体感よりも、各人がどんな音楽的関心を持っていたかが見えやすい。たとえばRichard Wrightの「Sysyphus」は、組曲的な構成の中で、ピアノや鍵盤の質感を細かく変えていく。単純にメロディを追う曲ではなく、場面転換そのものを聴かせるタイプだ。
Roger Watersの「Several Species of Small Furry Animals Gathered Together in a Cave and Grooving with a Pict」は、タイトルの長さでも目を引くが、内容もかなり特殊だ。声や音響の処理を前面に出し、楽曲というより音のコラージュに近い。Pink Floydがのちに発展させていく実験精神が、かなり早い段階で表れている。
David Gilmourの「The Narrow Way」は、ギターを軸にしながら、段階的に音像を広げていく構成だ。Gilmour加入後のバンドが持つ、旋律と空間の扱い方の原型を感じさせる。Nick Masonの「The Grand Vizier's Garden Party」は、打楽器の感触を中心に組み立てられていて、アルバム全体の中でも異なる手触りを持つ。
この時期のPink Floydらしさ
『Ummagumma』は、のちの大作志向に直結する完成形というより、その前段階の記録として読むほうが分かりやすい。サイケデリック・ロックの残響と、プログレッシブ・ロックへ向かう構想が同居していて、まとまりよりも試行の多さが印象に残る。バンドが「何をやるか」より「どう音を置くか」を探っていた時期の空気が、そのまま残っている。
ちなみにUS盤では、オリジナルの輸入盤で見られるジャケット上部の「GIGI」LPカバーの意匠が外されている。外観の違いもあるが、内容面では1969年当時のPink Floydの姿を示す作品として受け止めやすい。初期の代表曲と、実験性の強い新曲群が同居する構成は、この時代のバンドを知るうえでかなり分かりやすい入口になっている。
全体として、『Ummagumma』はPink Floydが初期のサイケデリックな感覚を保ちながら、より長いスパンで音を組み立てる方向へ進んでいく途中の記録だ。ライヴの推進力と、スタジオでの分解的な試み。その両方が入っていることで、1969年のPink Floydがどこに立っていたかが見えやすい一枚になっている。
トラックリスト
- Live Album
- A1 Astronomy Domine 8:25
- A2 Careful With That Axe, Eugene 8:47
- B1 Set The Controls For The Heart Of The Sun 9:21
- A Saucerful Of Secrets 12:51
- Studio Album
- Sysyphus
- C5 Grantchester Meadows 7:23
- C6 Several Species Of Small Furry Animals Gathered Together In A Cave And Grooving With A Pict 4:47
- D1 The Narrow Way - Parts I, II & III 12:14
- The Grand Vizier's Garden Party 8:55