Yes - Yes (1969)
Yes『Yes』――バンド名をそのまま冠したデビュー作
Yesの『Yes』は、1969年に発表されたデビュー・スタジオ・アルバムである。英ロック史の中でも、後にプログレッシブ・ロックの代表格として語られることになるバンドの出発点にあたる作品で、まだ完成形に到達する前の段階を記録した一枚でもある。ここでは、後年の大作志向や組曲的な構成よりも、バンドが持っていた演奏力、曲作りの幅、そして当時のロック/サイケデリック/ジャズ寄りの感触が前面に出ている。
この日本盤はAtlanticのP-8287Aで、1972年リリース。オリジナルの1969年盤から少し時間を置いた再発にあたり、Made in Japan、価格コード2,000円、帯と折り込みインサート付きという仕様で出ている。オリジナル盤との違いは、音楽内容そのものではなく、発売時期と日本向けの体裁にある。初期Yesを国内で入手しやすくした盤として、コレクション面でも目に留まる存在である。
初期Yesの輪郭が見える内容
1968年に結成されたYesは、1969年3月にAtlanticと契約し、ロンドンのAdvision StudioとTrident Studioでこの1枚を録音した。収録曲はオリジナル曲とカバーを組み合わせた構成で、バンドが自分たちの方向性を探っていた時期の記録になっている。のちのYesを知っていると、ここにはまだ“決定版”というより、複数の要素を試しながら形にしている段階がはっきり残っている。
演奏面では、Chris Squireのベースがすでに重要な役割を担っている。前に出る低音の動きは、後年のYesでさらに洗練されるが、その萌芽はこのデビュー作でも確認できる。Peter Banksのギターも同様で、リズムの細かな切り替えやフレーズの置き方に、当時のバンドの器用さが出ている。Jon Andersonのボーカルは、透明感のある声質でアンサンブルの上に乗り、楽曲の輪郭をまとめている。
収録曲と代表的な存在感
このアルバムからは、のちにシングルとしても扱われた曲があり、初期Yesの入口として位置づけられる。とくにカバー曲の扱いは興味深く、原曲の骨格を残しながら、演奏の密度やアレンジでYesらしさを作っている。収録曲全体としては、ハードに押し切る場面と、メロディを前に出す場面が交互に現れ、まだ若いバンドならではの振れ幅がある。
よく語られるのは、後の代表作『The Yes Album』や『Fragile』のような統一感とは違い、この1枚には試行錯誤の気配が残るという点である。ただしそのぶん、各メンバーの個性が見えやすい。完成されたプログレというより、ロックバンドが新しい語法を探している途中の記録として聴くと、細部の動きが追いやすい。
1969年の英ロック/プログレ文脈の中で
1969年は、英国ロックが大きく変化していた時期で、King Crimsonの登場前夜でもあり、ソフトなサイケデリック・ロックからより構築的な音楽へ進む流れが強まっていた。Yesのデビュー作もその中に置くと理解しやすい。すでに単なるビート・バンドではなく、演奏力を土台にして曲の組み立てを広げようとしている点が、のちのプログレッシブ・ロックの文脈につながっていく。
同時代のバンドと比べると、Yesは早い段階からコーラスの整い方や低音の動かし方に特徴がある。派手な長尺曲で知られるようになる前から、アンサンブルの中で各パートがきちんと役割を持つ設計が見えている。そうした意味で、この作品はYesが後に発展させるスタイルの出発点として読むことができる。
日本盤としての見どころ
1972年の日本盤は、オリジナル発表から少し後の時期に出た再発盤である。Atlanticの国内流通盤として、帯付き・折り込みインサート付きという日本盤らしい仕様が整っている。初期Yesのアルバムは海外盤と国内盤でコレクション上の印象が変わりやすく、この盤もその例に入る。70年代前半の日本で、まだ初期プログレを追いかけるリスナーに向けて流通していたことがうかがえる。
『Yes』は、のちの大作路線を先取りするというより、そこへ至る前の段階をそのまま残した作品である。だからこそ、楽曲の組み立て、演奏の呼吸、メンバーごとの輪郭が見えやすい。Yesというバンド名をそのままタイトルにしたことも、この時点での自信と、同時に“これから始まる”という宣言のように感じられる一枚である。
トラックリスト
- A1 Beyond And Before
- A2 I See You
- A3 Yesterday And Today
- A4 Looking Around
- B1 Harold Land
- B2 Every Little Thing
- B3 Sweetness
- B4 Survival