Kate Bush - Hounds Of Love (1985)
Kate Bush 1985

Kate Bush - Hounds Of Love (1985)

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Kate Bush『Hounds Of Love』― 室内制作から生まれた、1985年UKポップの到達点

Kate Bushの5作目のスタジオ・アルバム『Hounds Of Love』は、1985年9月にUKで発表された作品。前作『The Dreaming』で見せた実験性を引き継ぎながら、より明確な楽曲の輪郭と物語性を持ち込んだアルバムとして知られている。UKのEMIから出たオリジナル盤で、レーベル表記はKAB1。1980年代半ばの英国ポップ、アート・ロック、エレクトロニックの交点に置かれる一枚だ。

自宅スタジオで作られた、制作の自由度

本作の重要な背景は、ロンドン南東部ウェリングの実家「East Wickham Farm」の納屋を改装した自宅スタジオにある。1983年夏から、ベーシストのDel Palmerとともに制作が始まり、当初は8トラック、のちに24トラック、最終的には48トラック規模へと発展した。Fairlight CMIやLinnDrumを使った音作りが際立ち、電子音の配置が曲の構造そのものを形作っている。

前作『The Dreaming』は商業面で苦戦し、スタジオ費用をめぐってEMIとの緊張もあったとされる。その流れを受けて、費用や時間の制約を抑えながら自分のペースで作曲、演奏、プロデュースを進められたことが、『Hounds Of Love』のまとまりに直結している。聴き進めると、音数が多くても整理が崩れない。細部は複雑でも、曲の芯がはっきりしている。

A面のヒット曲群と、Kate Bushらしい構成感

このアルバムでまず触れられるのは、やはり「Running Up That Hill」だろう。1985年8月の先行シングルとして発表され、UKシングルチャートでは最高3位を記録した。シンセの反復、打ち込みの推進力、そして男女の立場を入れ替えるという歌詞のテーマが一体になった曲で、Kate Bushの代表曲として定着している。

続く「Cloudbusting」も重要だ。Peter Reichの回想録『A Book of Dreams』をもとにした映像作品としても知られ、Donald Sutherlandが精神分析家Wilhelm Reichを演じたミュージックビデオが印象的。楽曲自体も、ストリングス的なシンセの動きと、軍隊的なリズムが噛み合った構成で、物語を持つポップソングとしてよくできている。

アルバム全体を通すと、A面は比較的シングル向きの楽曲が並び、B面で大きく景色が変わる。その切り替えがこの作品の肝になっている。

B面「The Ninth Wave」という組曲

B面の「The Ninth Wave」は7曲からなるコンセプト・ピースで、曲間が途切れずに続く“continuous audio”として組まれている。海に投げ出され、漂流し、溺れかけながら救助を待つ女性の物語が軸にあり、Tennysonの詩やAivazovskyの絵画『The Ninth Wave』からの着想も語られている。

ここでは「Waking the Witch」の不穏なコラージュ感、「Jig Of Life」の民謡的な推進力、「Hello Earth」の静かな広がりなど、曲ごとの表情がかなり違う。それでも一本の流れとして聴こえるのは、編集と配置の精度が高いからだろう。ポップ・アルバムの体裁を取りながら、組曲としての緊張感を保っている点が特徴的。

1980年代UKポップの中での位置づけ

1985年9月の発売時にはUKアルバムチャートで1位を獲得し、当時1位だったMadonna『Like a Virgin』を押しのけた。Kate Bushにとっては、デビュー以来の独自路線が商業的にも結実した局面だった。前作までの実験性が、そのまま難解さに寄らず、曲としての強度に結びついている。

同時代の英国ポップの中でも、本作は単なるシンセ・ポップとは少し違う位置にある。打ち込みや電子音を使いながら、歌の中心にはかなり人間的な感情と物語が置かれているからだ。後の世代には、アート志向のポップ、コンセプトを持つ電子音楽、演劇性のある女性シンガーソングライター像に影響を与えた作品としても参照され続けている。

オリジナル盤の印象

このUKオリジナル盤は、内袋に歌詞、クレジット、写真を収めた仕様で、マトリクスはスタンプロ印字、TOWNHOUSEのマスタリング署名が刻まれている。音の立ち上がりがはっきりしていて、シンセの層やボーカルの位置関係が見えやすい。A面のポップな推進力と、B面の連続組曲の落差がそのまま盤面の流れに出ている。

『Hounds Of Love』は、Kate Bushのディスコグラフィーの中でも、実験と普遍性がかなり近い距離で並んだ作品。単独のヒット曲だけで終わらず、アルバム全体でひとつの構成物として成立している点が、このレコードの強さになっている。

トラックリスト

  1. Hounds Of Love
  2. A1 Running Up That Hill (A Deal With God) 4:56
  3. A2 Hounds Of Love 3:01
  4. A3 The Big Sky 4:35
  5. A4 Mother Stands For Comfort 3:05
  6. A5 Cloudbusting 5:07
  7. The Ninth Wave
  8. B1 And Dream Of Sheep 2:40
  9. B2 Under Ice 2:22
  10. B3 Waking The Witch 4:17
  11. B4 Watching You Without Me 4:06
  12. B5 Jig Of Life 4:03
  13. B6 Hello Earth 6:10
  14. B7 The Morning Fog 2:32

動画プレイリスト

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