Kate Bush - Never For Ever (1980)
Kate Bush『Never For Ever』日本盤LP(1980)について
Kate Bushの3作目のスタジオ・アルバム『Never For Ever』は、1980年9月に発表された作品だ。前作までですでに独自の世界観を確立していた彼女が、このアルバムでは作曲家としてだけでなく、プロデューサーとしての輪郭もはっきりさせていく。英国では女性ソロ・アーティストとして初めてアルバム・チャート1位を記録した作品でもあり、Kate Bushのキャリアの中でも重要な節目に置かれている。
この日本盤は1980年リリースの当時盤で、EMIから出た一枚。オリジナルの時点での空気をそのまま持った初期プレスで、ゲートフォールド仕様に帯付き、さらに日本語歌詞や解説を収めた両面インサートが付属する。日本盤ならではの丁寧な作りで、作品の内容を国内リスナーに伝える役割も大きかった盤面だ。
作品の位置づけ
『Never For Ever』は、Kate Bushにとって単なる3枚目のアルバムではない。デビュー作『The Kick Inside』、続く『Lionheart』で見せたソングライターとしての個性を踏まえつつ、この作品では音の配置や曲順の流れまで含めて、より自分の手で組み立てている印象が強い。Jon Kellyとの共同プロデュースで、録音には約半年をかけたとされる。ここで初期のFairlight CMIも導入され、以後のKate Bush作品に続くサウンドの方向性が見え始める。
当時のポップ/ロックの文脈で見ると、シンセや新しい録音技術が広がる時期ではあるが、Kate Bushの使い方は単なる流行追随ではない。楽器の音色を足すためというより、曲の場面転換や情景の切り替えを支える道具として機能している。アート・ロック寄りの構成感と、ポップ・ソングとしての輪郭が同居している点が、この時期の彼女らしさだ。
収録曲と代表曲
アルバムの中心にあるのは、やはり「Babooshka」だろう。鋭いリズムと、物語性の強い歌詞が前面に出た曲で、シングルとしても大きく存在感を持った。「男性の視線」「疑い」「自己像の揺れ」といった要素を、直接的な説明に頼らず展開していく書き方が印象的だ。曲の進行に合わせて感情の輪郭が少しずつ変わっていくため、聴き終えたあとに場面の残像が残る。
「Army Dreamers」も重要な1曲だ。軍隊に向かう若い兵士の死を題材にしながら、重さを前面に押し出しすぎず、旋律のなかに静かな痛みを置いている。ヒット曲でありながら、内容はかなり切実だ。その一方で、「Breathing」は核戦争後の世界を扱うなど、アルバム全体に不穏さと寓話性が通っている。
「Delius (Song of Summer)」「The Dreaming Soldier」など、タイトルからして具体的なイメージを持つ曲が並び、「Egypt」「The Wedding List」も含めて、場面ごとの温度差が大きい。バラード、物語歌、実験的な展開が同じアルバムの中で共存していて、1枚を通して聴くと曲ごとの役割がかなりはっきりしている。
日本盤の特徴
この日本盤には、収録曲の日本語表記とともに、歌詞対訳やファンクラブ案内が入っている。さらに「Babooshka」のシングル見本も小さく掲載され、アルバム外のB面曲に触れられる構成になっているのも面白いところだ。盤面の情報量が多く、当時の日本盤らしい親切さがある。
また、収録時間はインサート記載のものが採用されており、海外盤とわずかに表記が異なる点もある。こうした細部は、コレクター目線ではもちろん、当時の制作・流通の実務を映す要素としても興味深い。
聴きどころ
この作品を通して聴くと、Kate Bushの声の使い分けがよく分かる。高音の伸びだけで押すのではなく、語るような音域、沈黙に近い間、言葉の切れ目まで含めて曲を構成している。演奏も派手な技巧を見せつけるというより、曲の内部で役割を分担するタイプで、歌が前に出る場面と伴奏が空間を広げる場面の切り替えが細かい。
同時代の英国ポップの中でも、『Never For Ever』はかなり個人の筆跡が濃い作品だ。大きなチャート実績を持ちながら、内容は商業的な整合性だけでまとめられていない。むしろ、物語性、実験性、メロディの分かりやすさが同じ強さで並んでいるところに、このアルバムの面白さがある。
まとめ
『Never For Ever』は、Kate Bushが独自の作家性をさらに深めた1980年の重要作だ。代表曲「Babooshka」や「Army Dreamers」を含みつつ、アルバム全体では寓話的な題材、緻密な音作り、そして初期シンセ/サンプラーの導入が一体になっている。日本盤は帯付きのゲートフォールド仕様で、歌詞対訳や解説も充実。作品そのものの輪郭と、当時の国内リリースの丁寧さの両方が感じられる一枚になっている。
トラックリスト
- A1 Babooshka (バブーシュカ) 3:20
- A2 Delius (Song Of Summer) (ディーリアス(夏の歌)) 2:49
- A3 Blow Away (For Bill) (死者たち (ビルに捧く)) 3:32
- A4 All We Ever Look For (わずかな真実) 3:45
- A5 Egypt (エジプト) 4:10
- B1 The Wedding List (ウエディング・リスト) 4:15
- B2 Violin (バイオリン) 3:14
- B3 The Infant Kiss (少年の口づけ) 2:55
- B4 Night Scented Stock (木の精は夜の香り) 0:48
- B5 Army Dreamers (夢みる兵士) 2:55
- B6 Breathing (呼吸) 5:25