Kate Bush - The Kick Inside (1978)
Kate Bush 1978

Kate Bush - The Kick Inside (1978)

Rock Pop Art Rock

Kate Bush『The Kick Inside』日本盤LPレビュー

Kate Bushのデビュー・アルバム『The Kick Inside』は、1978年2月に発表された作品で、彼女の名前を一気に広く知らしめた重要な一枚だ。本盤は日本でリリースされた1978年盤で、オリジナル発売時の空気をそのまま日本向けに持ち込んだ初期プレスにあたる。ジャンル表記ではRock、Pop、スタイルではArt Rockに分類されるが、実際に聴くと、その枠だけでは収まりきらない構成感と語り口が前面に出ている。

10代の終わりに完成したデビュー作

ケイト・ブッシュは1958年生まれで、本作の発表時は19歳。10代のうちからアルバム制作を目標にしていたことが知られており、収録曲の一部には1975年のセッションから持ち越された素材も含まれる。制作の中心にはアンドリュー・パウエルがいて、録音の大半は1977年夏にロンドンのAIRスタジオで行われた。若いソングライターの初作というより、すでに独自の構成感を持つ作家の完成品に近い印象がある。

聴いてまず目立つのは、声の使い方と曲ごとの場面転換だ。メロディを押し出すだけでなく、フレーズの置き方や言葉の切り方に演劇的な感覚がある。ピアノを軸にしながら、ストリングスやギター、セッション・ミュージシャンの演奏が細かく配置され、曲の中で視点が変わっていく。ダンカン・マッケイ、イアン・ベアーソン、デイヴィッド・ペイトンらが参加していることもあり、バンド色と室内楽的な組み立てが同居している。

「Wuthering Heights」の存在感

このアルバムを語るうえで外せないのが「Wuthering Heights」だ。エミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』に着想を得た曲で、1978年3月には全英シングル1位を記録した。ケイト・ブッシュの名を一気に広めた代表曲であり、独特の高音と、物語の登場人物に入り込むような歌い方が強く印象に残る。ポップ・ソングとしての分かりやすさを持ちながら、内容はかなり文学寄りで、当時の一般的なロックやポップの感覚とは距離がある。

この曲のヒットによって、アルバム全体にも注目が集まった。英国アルバム・チャートでは最高3位を記録し、プラチナ認定も受けている。デビュー作としてはかなり大きな成功で、ケイト・ブッシュが以後も独自路線を保ちながら活動を続ける土台になった。

収録曲の組み立てとアルバム全体の流れ

本作には「The Man with the Child in His Eyes」「The Saxophone Song」「Moving」「Them Heavy People」など、後年まで語られる曲が並ぶ。「The Man with the Child in His Eyes」は、初期に書かれた楽曲のひとつとして知られ、ピアノと歌だけで引っ張る場面の説得力が大きい。「The Saxophone Song」は、タイトル通りの楽器イメージを使いながら、音の配置で景色を作るタイプの曲だ。「Moving」は日本のみでシングル化されており、当時の日本市場での扱いも特別だったことが分かる。

全体を通して、曲順にも緊張と緩和がある。派手なヒット曲だけを並べたアルバムではなく、内省的な曲と動きのある曲が交互に置かれているため、1枚を通して聴くとケイト・ブッシュの作家性が見えやすい。歌詞の内容も、恋愛だけに閉じず、神話性や文学性、身体感覚が混ざる。後の作品群につながる要素は、この時点ですでに揃っている。

日本盤ならではの仕様

この日本盤は、欧州盤や米国盤とは異なるフロント・カバーを採用している。オビ付きで、2面インサートには写真、曲目、和訳付きのバイオグラフィー、そして日本語対訳歌詞が収録されている。さらにU字型のポリ袋内袋が付属するなど、当時の国内盤らしい作りだ。なお、日本盤ではオビ上の別タイトルとして「Angel and Devil」が使われることが多く、海外盤とは見え方が少し異なる。

また、ラベル上では「Strange Phenomena」が「Strange Phenemena」と誤記されている。この種の細かな表記ゆれも、初期プレスならではの記録として残る。日本盤のコレクションとして見た場合、音だけでなく仕様面でも当時の発売事情が反映された一枚だ。

同時代の文脈

1978年の英国ポップ/ロックには、シンガーソングライター的な流れと、より大きなドラマ性を持つアートロックの流れが共存していた。『The Kick Inside』はそのどちらにも寄りかかりすぎず、ピアノを中心にした作曲、文学的な題材、演劇的な歌唱で独自の位置を作っている。デビュー作でここまで個性が前面に出る例は多くなく、後の女性ソロ・アーティストや表現重視のポップにも影響を残したと見られている。

初めて聴くと、曲の展開や声の使い方に意外性がある一方で、メロディ自体はきちんと耳に残る。そこがこのアルバムの強さだ。派手な装飾だけに頼らず、歌と構成で引きつける。ケイト・ブッシュの出発点として、かなりはっきりした輪郭を持つ作品である。

トラックリスト

  1. A1 Moving 3:06
  2. A2 The Saxophone Song 3:47
  3. A3 Strange Phenomena 2:53
  4. A4 Kite 2:58
  5. A5 The Man With The Child In His Eyes 2:39
  6. A6 Wuthering Heights 4:29
  7. B1 James And The Cold Gun 3:35
  8. B2 Feel It 3:00
  9. B3 Oh To Be In Love 3:17
  10. B4 L'Amour Looks Something Like You 2:25
  11. B5 Them Heavy People 3:04
  12. B6 Room For The Life 4:03
  13. B7 The Kick Inside 3:34

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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