K+D - 1995 (2020)
K+D『1995』について
K+Dは、オーストリアのデュオ、Kruder & Dorfmeisterの別名義による作品で、この『1995』はタイトルが示す通り1995年ごろに制作された音源をまとめたアルバムだ。オリジナルの制作時期は1995年付近だが、実際の作品として世に出たのは2020年。G-Stone Recordingsからのアナログ盤で、ゲートフォールド仕様、ダウンロードカード付きのリリースである。
Kruder & Dorfmeisterは、1990年代のウィーンを代表する存在として知られる。ダウンテンポ、トリップホップ、アンビエント、そしてリミックス文化の文脈で語られることが多く、ポップスやヒップホップ、ドラムンベースの楽曲に独自の間合いと低速のグルーヴを与えてきた。そうした彼らの活動の初期に位置する音源が、長い年月を経てアルバムとしてまとまったのが本作だ。
お蔵入りしていたデビュー・アルバムの発掘
この作品は、G-Stoneスタジオに残されていたDATテープの再発見をきっかけに完成したという経緯を持つ。1990年代半ば、彼らはサンプラー、キーボード、エフェクト機材を使い、ウィーンのスタジオでゆっくりと録音を進めていた。しかし、1993年のEP『G-Stoned』の成功や、その後の多忙な活動の中でアルバムは完成に至らず、テープは長く眠ることになった。2020年になって、あらためて2人が仕上げ直し、ようやく作品として形になった流れである。
時系列で見ると、『G-Stoned』の後、そして『DJ-Kicks』や『The K&D Sessions』以前の時期にあたる。つまり、後年の評価が固まったK&Dの作風を、かなり早い段階で確認できる資料でもある。初期の段階から、彼らは単なるビートの積み重ねではなく、音の隙間やサンプルの配置、残響の扱いまで含めて設計していたことがわかる。
サンプルの使い方と楽曲の輪郭
収録曲には、ロバート・ジョンソンの「Sweet Home Chicago」、アントニオ・カルロス・ジョビンの「Andorinha」、ドリヴァル・カイーミとアントニオ・アウメイダの「Doralice」、ラロ・シフリンの「Samba para dos」、デューク・ピアソンの「Cristo Redentor」といった素材が使われている。ブルース、ボサノヴァ、サンバ、ジャズといった異なるソースを、K&Dらしい低速のテンポ感でつないでいく構成だ。
曲ごとのBPMを見ると、90前後を中心にしながら、66のような遅い曲や、176表記のある曲まで含まれている。全体としては、一定の速度で押し切るタイプではなく、曲ごとに温度と距離感を変えながら進む作り。A面の段階から、打ち込みの輪郭がはっきりしすぎず、サンプルの断片や空間処理が前に出る。B面、C面、D面へ進んでも、その感触は大きく変わらない。
特に、ジャズやブラジル音楽由来のフレーズを、クラブ寄りの文法に寄せすぎずに置いていく感覚が印象に残る。素材の出自が明確でも、引用の説明に収まらず、曲全体の流れの中で機能している。K&Dの作品に通じる、リミックス的発想とアルバム的な統一感の両方が、この時点ですでに見えている。
2020年盤の意味
2020年の盤は、単なる未発表音源の寄せ集めではなく、当時の制作物をあらためて作品として成立させた点に意味がある。オリジナル時点では未完成だったアルバムが、四半世紀を経て、今の形で聴けるようになった。再発というより、過去のテープを掘り起こして完成させた発掘盤に近い。しかも、G-Stone Recordingsから出ているため、彼ら自身のレーベル文脈の中で回収された作品でもある。
マスタリングはバーニー・グランドマンが担当している。スティーリー・ダンやマイケル・ジャクソンの仕事でも知られるエンジニアだが、本作でも音の輪郭を整えつつ、もともとの素材感を残す方向に寄っている。古いDATテープ由来の音源を、過度に現代的な質感へ塗り替えるのではなく、当時の空気を保ったまま聴かせる作業になっている。
Kruder & Dorfmeisterの中での位置
Kruder & Dorfmeisterといえば、1990年代後半のダウンテンポ、トリップホップ、リミックス文化を語るうえで外せない存在だが、『1995』はその前史をそのまま閉じ込めたような一枚でもある。完成された代表作のあとから出てきた未発表盤ではなく、ブレイク前夜の制作がそのまま残っていた、という点が面白い。すでに彼ららしいテンポ感、サンプル選び、音の配置が見える一方で、後年の洗練の前段階にある粗さも含んでいる。
結果としてこのアルバムは、K&Dの名前で知られるサウンドが、どの地点から立ち上がったのかを確認できる記録になっている。1990年代ウィーンのクラブ文化、G-Stone周辺の流れ、そしてジャズやブラジル音楽の再解釈という文脈が、ひとつの作品の中でつながっている。
『1995』は、過去の断片を後年にまとめた作品でありながら、単なる資料には収まらない。K&Dの初期衝動と、その後に広く知られることになる音の感覚を、同じ盤面で確かめられるアルバムである。
トラックリスト
- A1 Johnson
- A2 Love Hope Change
- A3 Swallowed The Moon
- A4 Spring
- A5 Dope
- B1 King Size
- B2 Holmes
- B3 Don Gil Dub
- B4 Stop Sceaming
- C1 Morning
- C2 White Widow
- C3 In Bed With K+D
- C4 Ambiente
- D1 One Break
- D2 Love Talk