Lionel Richie - Dancing On The Ceiling (1986)
Lionel Richie『Dancing On The Ceiling』――80年代ポップとR&Bの交差点
1986年にMotownから発表されたライオネル・リッチーの『Dancing On The Ceiling』は、コモドアーズでの成功を経てソロ・アーティストとして定着した彼の、3作目のスタジオ・アルバムだ。前作『Can’t Slow Down』で世界的なスーパースターの地位を固めたあとに出た作品で、ここでもビルボード200と全英アルバムチャートの両方で1位を記録している。モータウンの伝統を引き継ぎながら、80年代のメインストリーム・ポップとコンテンポラリーR&Bを、かなり滑らかに接続した内容になっている。
このアルバムの印象を一言でまとめるなら、ヒット曲の並び方がきれいな作品だ。冒頭から音の輪郭がはっきりしていて、シンセ、ドラムマシン、ベース、コーラスの配置が整理されている。ライオネル・リッチーの歌は、声量で押すタイプではなく、フレーズの置き方と抑揚で曲を進める。そこに当時のポップ制作らしい明快なサウンドが乗るので、楽曲ごとのキャラクターが分かりやすい。
代表曲が作品の輪郭を作る
タイトル曲「Dancing On The Ceiling」は、このアルバムを語るうえで外せない1曲。全米2位まで上がり、スタンリー・ドーネン監督による映像でも広く知られた。曲自体はファンキーな跳ね方を持ちながら、サビでは大きく開ける作りで、ライオネルのポップ感覚が前面に出ている。音だけでなく、視覚的な記憶も含めて1980年代中期の代表曲のひとつになっている。
一方で、映画『ホワイト・ナイツ/白夜』の主題歌「Say You, Say Me」は、かなり性格が違う。こちらは全米1位を獲得し、アカデミー賞歌曲賞とゴールデングローブ賞も受賞した。ピアノを軸にしたバラードで、派手な装飾を抑えた作り。大きなフックを持ちながら、歌詞の輪郭をきちんと残すタイプの曲で、アルバムの中でも温度の違いがはっきりしている。
「Ballerina Girl」もよく知られた1曲で、全米7位を記録している。家庭的な視点を持つ楽曲で、感情の置き方が直接的すぎない。ライオネル・リッチーのソングライティングが、恋愛曲だけでなく、身近な対象を扱う場面でも安定していることが分かる。さらに、カントリー・グループのアラバマを迎えた「Deep River Woman」は、カントリー・チャートでも反応を得た曲で、ジャンルをまたぐ動きがこの時期の彼らしさでもある。
80年代中盤の主流サウンドの中で
『Dancing On The Ceiling』が出た1986年は、R&Bとポップの境界がさらに薄くなっていった時期だ。プリンス、ホイットニー・ヒューストン、ジャネット・ジャクソン、ボビー・ブラウンなど、メインストリームの中で黒人音楽の表現が広く聴かれていた。同じ流れの中で、ライオネル・リッチーはより歌中心、メロディ中心の立ち位置を保っている。ダンス・ミュージックの要素を取り込みつつも、曲の骨格はあくまで歌謡性の強いポップ・ソウル寄りだ。
プロデュースはライオネル本人とジェームス・アンソニー・カーマイケルの共同。音作りは時代相応に整っているが、過剰に硬くはならない。ベースラインやリズムの処理は80年代的でも、歌のフックが埋もれない設計になっている。聴き進めると、ヒット曲だけでなくアルバム全体の統一感も見えてくる。モータウンの看板を背負いながら、古いソウルの再現ではなく、当時のラジオ向けポップとして更新した作品だ。
1986年盤の見どころ
今回のUS盤は1986年リリースのオリジナル期のもの。盤面にはMotown 25周年ロゴが入り、ジャケット前面には「Dancing On The Ceiling」のエンボス加工が施されている。モータウンの記念年らしい仕様で、同じタイトルでもラベル表記違いの版が存在する。こうした細部も、当時のモータウンがまだブランドとして強い存在感を持っていたことを示している。
ライオネル・リッチーにとってこのアルバムは、ソロ・スターとしての地位を確立した時期の中心作にあたる。コモドアーズ時代から続くR&Bの感覚を土台にしつつ、80年代ポップの大きな市場で勝負した記録でもある。ヒットシングルの存在感が強い一枚だが、曲ごとの温度差やジャンルの振れ幅も含めて、当時のライオネル・リッチーの立ち位置がそのまま見える作品になっている。
トラックリスト
- A1 Dancing On The Ceiling 4:30
- A2 Se La 5:22
- A3 Ballerina Girl 3:36
- A4 Don't Stop 7:43
- B1 Deep River Woman 4:35
- B2 Love Will Conquer All 5:40
- B3 Tonight Will Be Alright 5:06
- B4 Say You, Say Me 4:00