Bobby Caldwell - Bobby Caldwell (1978)
Bobby Caldwell / Bobby Caldwell(1978年、US盤)
ボビー・コールドウェルのデビュー・アルバム『Bobby Caldwell』は、1978年にUSのCloudsレーベルから出た作品で、のちに本人の名前を広く知らしめることになる「What You Won’t Do For Love」を収めた一枚である。ジャズ、ソウル、ポップの要素をまたぐ内容で、いわゆるAORやメロウ・ソウルの文脈でもよく語られる。コールドウェルはジャズ・シンガー/ソングライターとして紹介されることが多いが、この時点ですでに歌、ギター、ピアノを軸に、作曲や編曲までこなす多才さが前面に出ている。
デビュー作としての位置づけ
本作は、後年まで続くボビー・コールドウェル像の原型になったアルバムだ。ブルー・アイド・ソウルの声質を持ちながら、単なるポップ寄りのシンガーに収まらず、R&B、ソウル、ディスコ、バラードを自然に行き来する構成になっている。アメリカの1970年代後半らしい洗練されたソウル・アルバムでありながら、演奏や歌の運びにはジャズ由来の柔らかさもある。派手な押し出しより、フレーズの置き方やコード感で聴かせるタイプの作品。
レーベルはマイアミのClouds、T.K. Productions系の流れにある。南部ソウルやディスコの空気を持つレーベル環境のなかで、白人シンガーであるコールドウェルがR&B市場にどう受け止められるか、という点も当時は意識されていたようだ。そうした事情もあって、ジャケットでは本人の顔を前面に出さないデザインが採られた。本人が公園のベンチに座る写真をもとにしたシルエット画が使われ、作品の印象を強く残すビジュアルになっている。
最大の焦点「What You Won’t Do For Love」
このアルバムを語るうえで外せないのが「What You Won’t Do For Love」。収録曲の大半を録音し終えたあと、マネージャーから「ヒット候補がない」と指摘され、コールドウェルが2日間で書き上げた曲として知られる。結果は大きく、1978年12月にBillboard Hot 100で9位、Hot R&B Singlesで6位、Adult Contemporaryで3位を記録した。ジャンルをまたいでヒットした事実が、この曲の性格をよく示している。
実際に聴くと、冒頭のギターの運びから歌に入るまでの流れが非常に自然で、サビへ向かう前の抑え方が巧い。ベースのうねり、コーラスの入り方、コードの残し方が過不足なくまとまっていて、1970年代末のソウル/AORの質感がそのまま閉じ込められている。後年に数多くカバーされるのも納得の、旋律と和声のバランスを持った曲である。
アルバム全体の聴きどころ
本作は特定の一曲だけで成立しているわけではなく、アルバム全体に統一感がある。ソウル寄りのナンバー、バラード、少しディスコの気配を持つ曲が並び、歌声の温度感を軸にまとまっている。コールドウェルの歌は、強く張り上げる場面よりも、音程の置き方や息の混ぜ方で表情を作る場面で持ち味が出る。そこがスティーヴィー・ワンダーの洗練されたソウルと比較されることにつながっている。
英音楽誌Smash Hitsが本作を「スティーヴィー・ワンダーへの敬愛が滲む、洗練されたメロウ・ソウル」と評したという記録もある。実際、本作にはソウルの黒っぽさと、ポップに届く明快さが同居している。ジャズの素養を背景にしながら、当時のラジオ向けソウル/AORの文脈にきれいに接続している点が、このアルバムの特徴になっている。
チャートとその後
アルバム自体もBillboard Top LPs & Tapeで21位、Soul LPsチャートで7位まで上昇した。デビュー作としては十分に大きな反響であり、コールドウェルの名前を一気に広げる結果になった。以後30年に及ぶキャリアのなかで、Top 40入りしたシングルはこの「What You Won’t Do For Love」のみとされるが、その一曲が長く代表曲として残り続けているのは事実である。
ボビー・コールドウェルは、のちにカバーやサンプリングの対象としても広く参照される存在になった。特に「What You Won’t Do For Love」は、メロウ・ソウルやAORの定番曲として繰り返し取り上げられ、1970年代末のソウルの一つの到達点として聴かれ続けている。本作は、その出発点にあるデビュー・アルバムとして、今見ても内容と背景の両方がはっきり残る作品である。
トラックリスト
- A1 Special To Me 4:00
- A2 My Flame 3:30
- A3 Love Won't Wait 4:00
- A4 Can't Say Goodbye 5:20
- B1 Come To Me 2:52
- B2 What You Won't Do For Love 4:45
- B3 Kalimba Song 2:00
- B4 Take Me Back To Then 3:30
- B5 Down For The Third Time 3:30