Lipps, Inc. - Mouth To Mouth (1979)
Lipps, Inc.『Mouth To Mouth』について
1979年にUSカサブランカから出たLipps, Inc.のデビュー・アルバムが、この『Mouth To Mouth』である。ミネアポリス出身のプロジェクトとして始まり、のちに世界的ヒット「Funkytown」を生む入口になった作品でもある。Lipps, Inc.は、スティーヴン・グリーンバーグが中心となって動いたユニットで、そこにシンシア・ジョンソンの歌声が加わって形が定まった。ファンク/ソウルを土台にしながら、当時のディスコの空気を強くまとった一枚で、バンドの初期像をそのまま記録したアルバムになっている。
作品の位置づけ
Lipps, Inc.は「Funkytown」の名前で知られることが圧倒的に多いが、このアルバムはその前段階として重要だ。もともとグリーンバーグはウェディングDJとして活動し、そこから自作のディスコ曲を書こうと考えたことが出発点だったという。最初はひとりのプロジェクトとして始まり、曲のオーディションを通じてシンシア・ジョンソンと出会い、2人組の体制に近い形で動き出した。『Mouth To Mouth』は、その初期衝動がまだ強く残っている時期の記録でもある。
アルバムの中核にあるのは、やはり「Funkytown」だ。地元ミネアポリスの音楽シーンに息苦しさを感じたグリーンバーグが、「もっとファンキーな街へ行きたい」という個人的な願望を歌詞に落とし込んだ曲として知られる。実際、この曲は全米Billboard Hot 100で4週1位を記録し、世界28か国で1位を獲得した。シングルは発売から数か月で200万枚超を売り上げ、アルバム自体もBillboard 200で5位まで上昇している。デビュー作にして、グループの名前を一気に広めた決定打になった。
サウンドと制作
この盤のクレジットを見ると、制作の輪郭がかなりはっきりしている。録音はミネアポリスのSound 80 Studios、マスタリングはロサンゼルスのAllen Zentz Studios。出版はRick's Music, Inc.とSteve Greenberg Music (BMI)で、制作の中心がグリーンバーグにあったことが分かる。サウンド面でも、その個人主導の色は濃い。派手な編成で押し切るというより、リズムの反復、ベースの推進力、ボーカルの抜けを軸にした作りで、ディスコの機能性が前に出ている。
聴感上は、フロア向けの設計が明快だ。ビートの立ち上がりが早く、低音が曲を引っ張る。シンシア・ジョンソンの歌は、力任せではなく、リズムの隙間を埋めるように乗っていく。特に「Funkytown」は、後年まで引用される理由がよく分かる構造で、サビの言葉の運びとリズムの噛み合いが強い。ディスコの中でも、シンプルなフックと反復で押すタイプの作り方に近い。
同時代の文脈
1979年という時期は、ディスコが大きく広がった後期にあたる。Casablancaはその中心的なレーベルのひとつで、Donna Summer、Village People、Giorgio Moroderらと並んでLipps, Inc.を抱えていた。『Mouth To Mouth』も、そうしたカサブランカのカタログの中に置くと輪郭が見えやすい。クラブ志向の強い作り、シングルの力でアルバムを押し上げる流れ、そして映画やポップカルチャーとも結びつく時代性。そうした文脈の中で、この作品はかなり素直に1979年のディスコを示している。
一方で、ミネアポリス発という点も見逃しにくい。のちに同地からはPrinceをはじめ、ファンクやポップの新しい動きが生まれるが、Lipps, Inc.はその少し前の段階で、都市のシーンに対する違和感や外へ出たい感覚を音に変えていた。グリーンバーグの「もっと刺激のある街へ行きたい」という感覚が、そのまま「Funkytown」の核になっているのも、この土地の空気を考えると興味深いところだ。
オリジナル盤としての特徴
この盤は1979年のUSオリジナルで、レーベル表記には「All Manufactured and Distributed by Casablanca Record and Filmworks, Inc.」とある。ラベルには「℗ 1979 Casablanca Record & Filmworks, Inc.」の表記があり、スリーヴ側では「℗ 1980」「© 1980」のクレジットも確認できる。なお、ラベルの「18」はプレス工場を示す記号として記録されている。Casablancaの同時期の盤らしく、ディスコ全盛期の空気とレーベルの存在感がそのまま刻まれた仕様だ。
まとめ
『Mouth To Mouth』は、「Funkytown」という巨大なヒットの前提を作ったデビュー作であり、Lipps, Inc.の出発点をそのまま伝えるアルバムだ。スティーヴン・グリーンバーグの作曲・制作の手触り、シンシア・ジョンソンのボーカル、そしてCasablancaらしいディスコの推進力がきれいに重なっている。大ヒット曲の存在で語られやすい作品だが、アルバム全体を追うと、1979年のクラブ志向のポップ/ファンクがどう組み立てられていたかが見えやすい一枚でもある。
トラックリスト
- A1 Funkytown 7:51
- A2 All Night Dancing 8:00
- B1 Rock It 5:40
- B2 Power 7:59