Lyn Christopher - Lyn Christopher (1973)
Lyn Christopher『Lyn Christopher』(1973年、Paramount Records)
1973年にUSのParamount Recordsから出た、リン・クリストファー唯一のソロ・アルバム。女性シンガーの作品として見ると、ソウル、ポップ、ロックの要素がきれいに交差した一枚で、70年代初頭のニューヨーク産レコードらしい空気がはっきり残っている。全体の印象は、歌を中心に置いたソウル・ポップ寄りの作りで、そこにソフトロック的な流れが自然に重なる構成。派手に押し切る作品ではなく、楽曲ごとの温度差やアレンジの細かさで聴かせるタイプのアルバムだ。
録音はエレクトリック・レディ・スタジオ
本作はニューヨークのElectric Lady Studiosで録音されている。ジミ・ヘンドリックスのために作られたスタジオとして知られる場所で、70年代のNY録音らしい輪郭のはっきりした音像が特徴的。プロデュースはRon Johnson、アレンジはAl Gorgoni。サウンド面では、ギターにHugh McCracken、ドラムにAlan Schwartzbergといったセッション・ミュージシャンが参加していて、演奏の安定感が高い。歌を支えるバッキングの組み立てが丁寧で、曲の流れを崩さないまま細部を積み上げていく作り。
KISS以前の記録としての側面
このアルバムがロック史の文脈で語られる大きな理由は、Gene SimmonsとPaul Stanleyがバックコーラスで参加している点にある。参加曲は「Weddin'」「Celebrate I」「Celebrate II」で、いずれもKISS結成前夜の記録として知られる。さらにPeter Crissもハンドクラップで関わっており、のちのKISSにつながる人物が複数そろっている。ここは単なる話題性ではなく、70年代前半のニューヨークで人脈がどのように交差していたかを示す具体的な痕跡でもある。Gene SimmonsとPaul Stanleyが、KISSとして表舞台に出る前の仕事を残している点で、資料的な価値が高い。
楽曲の中心にあるメロウな質感
アルバム全体はソウル寄りの歌ものとしてまとまっている。力任せに盛り上げる場面よりも、フレーズの置き方やリズムの軽さで聴かせる曲が多い。中でも「Take Me With You」はよく取り上げられる1曲で、メロウなグルーヴと歌の粘りが前に出る。後年、ヒップホップのサンプリングでも参照されていて、レア・グルーヴやフリーソウルの文脈で名前が出ることも多い。こうした再評価は、単に珍しいからではなく、曲の中に繰り返し拾いたくなるフレーズやリズムの芯があるからこそ成り立っている。
同時代の感覚で見ると、ソウルの滑らかさとロックの骨格を行き来する作品で、女性シンガーのソロ作としてはあまり大きく前に出すぎないバランスが面白い。Carole King以後のシンガーソングライター的な空気や、Aretha Franklin周辺の強いソウル表現とは別の場所にありつつ、70年代初頭の都会的なポップ感覚を共有している。
唯一作としての位置づけ
Lyn Christopherにとってこのアルバムは、1970年代に残した唯一のソロ・アルバム。作品数が少ないぶん、1枚の中に歌手としての個性がそのまま残っている。大きなヒットで知られるタイプではないが、KISS前史の資料性、NYセッション・サウンド、そしてメロウな楽曲の質感が重なって、長く語られてきた理由ははっきりしている。オリジナル盤は1973年のUS Paramount Records盤で、のちに再評価が進み、再発盤でも聴かれる機会が増えた作品。70年代ソウル/ポップの周辺で拾われ続けるのも納得の内容だ。
トラックリスト
- A1 She Used To Wanna Be A Ballerina
- A2 I Don't Want To Hear It Anymore
- A3 Canta Libre
- A4 Weddin
- A5 Celebrate I
- B1 Celebrate II
- B2 All My Choices
- B3 Is Everybody Happy
- B4 Unrequited
- B5 Take Me With You
- B6 Billy Come Down