Marcos Valle - Previsão Do Tempo (1973)
Marcos Valle『Previsão Do Tempo』(1973)
マルコス・ヴァーリの『Previsão Do Tempo』は、1973年にブラジルでリリースされたアルバム。MPBを土台にしながら、ファンク、ソウル、ジャズ、サイケデリックな感触まで取り込んだ、彼の70年代前半を代表する一枚として知られている。リオデジャネイロのオデオン・スタジオで制作され、演奏面ではブラジルのジャズ・ファンク・トリオ、アジムスが重要な役割を担っている点も大きい。
ブラジル音楽の文脈での位置づけ
マルコス・ヴァーリは、ボサノヴァ以後のブラジル音楽を語るうえで外せない作曲家・歌手・プロデューサーのひとり。1943年生まれのリオ出身で、1960年代からソングライターとして活動し、70年代に入るとより広い音の実験へ進んでいく。『Previsão Do Tempo』は、その流れの中でも、ブラジルの伝統的なリズム感と、アメリカのブラック・ミュージック由来のビート感が近い距離で並ぶ作品として目立つ。
当時のブラジルは軍事独裁政権下にあり、検閲の空気が強かった時代。そうした状況のなかで作られた本作には、直接的というより、言い回しや雰囲気の中に社会状況をにおわせるような楽曲が並ぶ。政治色を前面に出すのではなく、音の流れの中に時代の圧力が滲む構図。
アジムスとの連携が生む、70年代ブラジルらしい推進力
本作では、マルコス・ヴァーリのフェンダー・ローズと、ジョゼ・ロベルト・ベルトラミのハモンド・オルガンが絡む場面が印象的。そこにエレクトリック・ベースやシンセサイザーが加わり、曲全体がゆったり進むのに、内部では細かく音が動いている。アジムスをバックに迎えた作品としては、映画『O Fabuloso Fittipaldi』のサウンドトラックに続く2作目で、この時期のヴァーリのサウンド設計を考えるうえで重要な位置にある。
サンバ、ボサノヴァ、バイアォンといったブラジル音楽の要素に、ファンクやサイケデリック・ロックの感触を重ねる作りは、同時代のエジソン・マシャードやアジムス、あるいはより広い文脈ではミルトン・ナシメント周辺のMPBとも響き合う。ただし『Previsão Do Tempo』は、バンドのうねりを前に出しつつ、曲の芯にポップなメロディを残しているところが特徴的。
収録曲と知られた楽曲
収録曲の中では「Os Ossos Do Barão」と「Mentira」が後年テレノベラのテーマ曲として使われたことで知られている。こうした使われ方もあって、アルバム単位の評価だけでなく、曲単位でも長く聴かれてきた作品だ。メロディの覚えやすさと、編曲の細部にある緊張感が両立していて、耳に残る部分が多い。
聴感上は、派手に押し出すというより、低音域の粘りと鍵盤の質感で引っ張る場面が多い。フェンダー・ローズの丸い響き、オルガンの少し乾いた鳴り、リズム隊の細かな跳ね方が重なって、曲ごとの表情を作っている。ブラジル音楽の軽やかさだけでなく、スタジオ作品としての構築感が強い一枚。
ジャケットと初回仕様
オリジナル盤はブラジル盤で、OdeonのSMOFB-3788。ジャケットは半光沢のラミネート仕様で、初回分には片面印刷の白黒12インチ四方の歌詞インサートが付属していた。水中を思わせるジャケット写真も印象的で、作品全体の静かな圧迫感と結びつけて語られることが多い。レコードとして見ても、内容とパッケージの方向がそろっている。
評価の定着
『Previsão Do Tempo』は、マルコス・ヴァーリのディスコグラフィーの中でも、70年代ブラジルの都市的な感覚と、黒人音楽由来のグルーヴが強く結びついた代表作のひとつとして扱われている。AllMusicで高評価を得ていることや、後年の再評価の広がりも含め、MPBを語るときに外しにくいアルバム。ブラジル音楽の枠内に収まりきらない広がりを持ちながら、同時に1973年という年の空気を強く残す作品。
トラックリスト
- A1 Flamengo Até Morrer 3:28
- A2 Nem Paletó, Nem Gravata 3:00
- A3 Tira A Mão 2:48
- A4 Mentira 3:40
- A5 Previsão Do Tempo 3:39
- A6 Mais Do Que Valsa 2:50
- B1 Os Ossos Do Barão 2:20
- B2 Não Tem Nada Não 3:14
- B3 Não Tem Nada Não (2) 1:26
- B4 Samba Fatal 3:07
- B5 Tiu-Ba-La-Quiéba 3:24
- B6 De Repente, Moça Flor 3:06