Nick Drake - Five Leaves Left (1969)
Nick Drake『Five Leaves Left』(1969)レビュー
Nick Drakeのデビュー作『Five Leaves Left』は、1969年に英国Island Recordsから出たアルバムで、Nick Drakeという名前を最初に強く印象づける一枚だ。ジャンル表記ではRock、スタイルではFolk Rockに置かれているが、実際の聴き心地はもっと静かで、歌とギター、そして室内楽的な編曲が前面に出た作品として受け取られることが多い。派手な展開や即効性のあるフックで押すタイプではなく、曲の輪郭を少しずつ見せていく構成が中心にある。
デビュー作としての位置づけ
Nick Drakeは1948年生まれの英国のシンガー・ソングライターで、1974年に亡くなるまでに3枚のアルバムを残した。その最初の作品が『Five Leaves Left』である。後年の評価では代表作のひとつとして扱われることが多いが、発売当時の商業的反応は大きなものではなかった。とはいえ、この時点ですでに、声の置き方、ギターの運び、言葉の間合いにNick Drakeらしさがはっきり出ている。デビュー盤でありながら、未完成感よりも、すでに独自の作法が固まっている印象が強い。
制作は1968年夏にロンドンのSound Techniquesで始まり、1969年春まで続いたとされる。プロデュースはJoe Boyd。英国フォーク周辺の人脈がしっかり関わっていて、当時のシーンの流れの中にこの作品を置いてみると、同時代のフォーク・リバイバルの中でもかなり個人的な方向へ寄った一枚に見えてくる。Fairport ConventionやPentangleのように伝統曲やバンド的な演奏で広がる流れとは少し距離があり、より内省的な歌の作り方が中心にある。
収録曲と聴きどころ
冒頭の「Time Has Told Me」は、このアルバムの入口として非常にわかりやすい。ギターの細かな動きと歌の距離感が近く、静かな立ち上がりの中に曲の芯がある。「River Man」は、後年まで語られることの多い代表曲で、Robert Kirbyの編曲が曲の空気を大きく支えている。弦の動きがただ装飾として入るのではなく、歌の余白を埋めずに周囲を囲う形で入ってくるのが特徴的だ。
「Way to Blue」もこの作品を語るうえで外しにくい曲で、短い言葉の反復と旋律の運びが印象に残る。なお、このアルバムの初回盤では、カバー表記で「Day Is Done」と「Way to Blue」の順番が入れ替わっているが、レコードの実際の再生順は「Way to Blue」から「Day Is Done」になっている。こうした初回盤ならではの細かな違いも、オリジナル盤を追う楽しみのひとつだろう。
さらに「Cello Song」「Man in a Shed」「Fruit Tree」なども、曲ごとの輪郭が明確で、派手さはないのに記憶に残る。全体として、歌詞の内容を大きく押し出すというより、声の質感と演奏の配置で情景を作っていくアルバムという印象がある。聴いていると、音数の少なさではなく、必要な音だけを置いている感触が強い。
タイトルとジャケットの話
『Five Leaves Left』という題名は、リズラの巻き紙に印字された警告文に由来するとされている。この由来は、このアルバムの持つ静かな陰影と相性がよく、作品の印象を補強する要素としてよく語られる。カバー写真は1969年4月29日に撮影されたもので、折りたたみ式のジャケットに収められている。初回盤はピンクのIslandラベルに黒い“block”ロゴを用いた仕様で、盤の表記やジャケットの細部に当時のプレスらしい個体差が見られる。
レーベルはIsland Records、カタログ番号はILPS 9105。Islandは1960年代後半にロック色を強めていったレーベルで、この時期の英国オルタナティブ・フォークやロックの重要作を多く抱えていた。その中で『Five Leaves Left』は、ロックの文脈にありながら、かなり内省的な方向へ振れた作品として置ける。
同時代との関係
Nick Drakeの音楽は、同時代の英国フォークと比べると、より個人の内面に寄った静けさを持つ。Joni Mitchellのようなシンガー・ソングライターと比較されることもあるし、ギターの緻密さや編曲の品の良さという点では、当時のアコースティック系作品の中でもかなり独自の位置にある。後年の評価では、歌声の細さや控えめな表現がむしろ作品の核として受け取られ、のちのインディー・フォークや室内楽的なポップにも影響を与えたと見なされている。
発売時には大きなヒットにはならなかったが、現在ではNick Drakeの出発点としてだけでなく、彼の3枚のアルバム全体を貫く感触を最初に示した作品として重要視されている。『Five Leaves Left』には、すでに完成された作者の手つきと、まだ広く届いていない声の両方が入っている。静かなレコードだが、細部を追うほど情報量が増えていくタイプの作品である。
まとめ
『Five Leaves Left』は、1969年の英国フォーク/ロックの中で、派手な主張よりも、繊細な構成と歌の温度で印象を残すデビュー作だ。Nick Drakeの代表曲として語られる「River Man」や「Way to Blue」を含みつつ、アルバム全体がひとつの空気でつながっている。初回盤の表記違いやジャケットの仕様も含め、オリジナル盤ならではの細部が残る一枚でもある。後年の評価で大きく価値が高まった作品ではあるが、その評価の土台は、最初からこのアルバムの中にきちんと置かれていたように見える。
トラックリスト
- A1 Time Has Told Me 3:56
- A2 River Man 4:28
- A3 Three Hours 6:01
- A4 Way to Blue 3:05
- A5 Day Is Done 2:22
- B1 'Cello Song 3:58
- B2 The Thoughts Of Mary Jane 3:12
- B3 Man In A Shed 3:49
- B4 Fruit Tree 4:42
- B5 Saturday Sun 4:00