Radiohead - Hail To The Thief (2003)
Radiohead 2003

Radiohead - Hail To The Thief (2003)

Electronic Rock Experimental Alternative Rock

Radiohead『Hail To The Thief』──2003年の緊張感をそのまま封じたアルバム

Radioheadの6作目となる『Hail To The Thief』は、2003年にUK & Europeでリリースされた作品である。オックスフォードシャー出身の5人組が、Kid AAmnesiac で大きく振り切った実験性を経て、ギターとピアノを軸にしたバンド演奏へ再び重心を戻した時期のアルバムとして知られる。電子的な処理、ロックバンドとしての推進力、そして不穏な空気が同じ盤面に並び、2000年代前半のRadioheadをそのまま切り取ったような1枚である。

制作背景と作品の立ち位置

本作は、2002年9月から2003年2月にかけて、ロサンゼルスのOcean Way Studiosと自分たちのスタジオで録音された。前2作のようにスタジオ内で細部を積み上げる方法から少し離れ、比較的短い期間で形にした点が特徴的である。演奏の輪郭が前面に出ており、曲によってはリハーサル・スタジオでそのまま鳴らしているような手触りもある。

Radioheadにとっては、EMIとの契約を終える前の時期にあたる作品で、バンドのキャリアの中ではひとつの区切りに位置する。『OK Computer』で広く注目を集め、『Kid A』でサウンドの前提を崩したあと、その次にどこへ向かうのかを示したアルバムとして聴かれてきた。

政治的な空気とタイトルの意味

『Hail To The Thief』というタイトルは、2000年の米大統領選をめぐる混乱の中で、ジョージ・W・ブッシュの当選に抗議するデモのスローガンから取られている。アフガニスタンやイラクでの戦争、ブッシュ政権への不信、当時の英米の政治状況に対する苛立ちが、歌詞のあちこちに反映されている。Radioheadの作品の中でも、政治的な緊張感が前景に出たアルバムとして扱われることが多い。

各曲の副題にも特徴がある。たとえば「There There」の “The Boney King Of Nowhere” や、「Sit Down. Stand Up.」の “Snakes & Ladders.” のように、括弧書きのフレーズが付く曲がある。これはヴィクトリア朝のミュージックホールに見られる、道徳劇的なプログラムから着想を得たものとされる。

収録曲の印象

聴き進めると、前半から終盤まで緊張が緩みにくい構成である。シングル曲の「There There」は、リズムの積み重ねとギターの層がはっきりした代表曲で、ライヴでも重要な位置を占めてきた。「Go to Sleep.」や「2 + 2 = 5」のような曲では、Radioheadの中でも比較的ロックバンドらしい駆動感が出ている。一方で、「A Wolf at the Door.」まで含めると、単純に“ギターに戻った”だけではなく、音の処理や間の取り方に『Kid A』『Amnesiac』以降の感覚が残っている。

実際に聴くと、音数の多い曲でも各パートが詰め込まれすぎず、空白が残されているのが分かる。Thom Yorkeの声は前作以上に言葉を押し出す場面があり、歌というより発語の圧で曲を引っ張る箇所が目立つ。特にタイトル曲周辺から後半にかけては、メロディよりもフレーズの切り方や反復の仕方が印象に残る。

盤の仕様と今回のプレス

このUK & Europe盤はParlophoneからのリリースで、ラベルにはEMIのロゴも見られるが、レーベルとしてはParlophone扱いである。180gの重量盤で、光沢のある見開きジャケット、プリント入りインナーが付く仕様。アーティスト名とタイトルはジャケットに直接印刷されておらず、表面上部中央の黒いステッカーで示されているのもこの盤の特徴である。

なお、ラベル上ではA2「Sit Down. Stand Up.」の表記が “Stand up. Sit down.” になっている。こうした細部は、オリジナル盤ならではの確認ポイントである。曲順や内容自体に違いはないが、初期プレスの資料性を感じさせる部分である。

同時代の文脈

2003年当時のRadioheadは、同時代のオルタナティヴ・ロックの中でも、単なるギターロックに収まらない位置にいた。90年代的なバンドサウンド、ポストロック的な構成感、電子音楽の処理が交差し、R.E.M.やThe Smiths、Pixies、Joy Divisionといった先行するオルタナティヴ勢の系譜を引きつつも、同じ場所には留まらない。『Hail To The Thief』は、その流れの中で、いったんバンドの演奏を前に出してみせた作品として見ておきたい。

全英1位、全米3位を記録し、発売初週から大きな売り上げを示したことも、この時期の注目度を裏づけている。政治性、即応性、バンド演奏の手触りが同居したアルバムとして、2003年の空気を強く持った作品である。

トラックリスト

  1. A1 2 + 2 = 5 (The Lukewarm.)
  2. A2 Sit Down. Stand Up. (Snakes & Ladders.)
  3. A3 Sail To The Moon. (Brush The Cobwebs Out Of The Sky.)
  4. B1 Backdrifts. (Honeymoon Is Over.)
  5. B2 Go To Sleep. (Little Man Being Erased.)
  6. B3 Where I End And You Begin. (The Sky Is Falling In.)
  7. C1 We Suck Young Blood. (Your Time Is Up.)
  8. C2 The Gloaming. (Softly Open Our Mouths In The Cold.)
  9. C3 There There. (The Boney King Of Nowhere.)
  10. C4 I Will. (No Man's Land.)
  11. D1 A Punchup At A Wedding. (No No No No No No No No.)
  12. D2 Myxomatosis. (Judge, Jury & Executioner.)
  13. D3 Scatterbrain. (As Dead As Leaves.)
  14. D4 A Wolf At The Door. (It Girl. Rag Doll.)

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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