Spirogyra - St. Radigunds (1971)
Spirogyra『St. Radigunds』について
Spirogyraの『St. Radigunds』は、1971年に発表されたデビュー作で、英国フォークの流れを土台にしながら、カンタベリー系の感触やプログレッシブ・ロックの要素を自然に混ぜ込んだ作品だ。中心にいるのは、Boltonで結成された英国のフォーク/プログレ・バンドという出自を持つこのグループで、Barbara Gaskinの歌声と、Martin Cockerham、Julian Cusack、Steve Borrillらの演奏が軸になっている。タイトルはメンバーが住んでいたCanterburyのSt Radigunds Streetに由来する。
録音はロンドンのMorgan StudiosとSound Techniques Studiosで行われ、プロデュースはRobert Kirby、エンジニアはJerry Boys。参加メンバーにはBarbara Gaskinのほか、Bill BrufordとDave Mattacksがドラムで加わっている。こうした顔ぶれを見るだけでも、単なるフォーク・バンドの初作というより、当時の英国アンダーグラウンドに接続した作品として捉えやすい。発売当時から大きな商業的成功を収めた記録は見当たらず、むしろ地下シーンで評価を積み重ねたタイプのアルバムとして受け取られている。
内容と聴きどころ
この作品の面白さは、伝統曲をなぞるだけのフォークではなく、自作曲を中心に据えているところにある。曲作りは比較的ソング志向で、メロディの通りやすさを保ちながら、歌詞や編曲に少しひねりを入れている。Barbara Gaskinの声は、細く伸びるタイプの女性ヴォーカルで、素朴さだけでなく、言葉の輪郭をはっきり残す歌い方が印象に残る。そこに、アコースティック楽器の響きと、時折入るリズムや展開の変化が重なる。
演奏面では、いかにも後年のフォーク・ロックの定型に収まる感じではなく、曲ごとに間の取り方が違う。ギター、ベース、ドラムの配置は派手すぎず、しかし単に伴奏に徹しているわけでもない。特に、ドラムにBrufordやMattacksが入ることで、リズムの置き方に軽い緊張感が生まれている。英国の同時代バンドでいえば、フォークの骨格を持ちながらも、Jethro TullやFairport Convention周辺の空気を共有していた時期の作品群と並べて語られることが多い。
当時の評価と位置づけ
当時の評判は好意的で、NMEは歌詞について若い世代の混乱の中にも洞察があると評し、Melody Makerも想像力のあるアプローチを評価していた。後年の回顧でも、独創的なソングライティングと演奏、Barbara Gaskinの声がカルト的人気の土台になったと見られている。実際、このアルバムは一発で広く知られた作品というより、聴き込むほど輪郭が見えてくるタイプの初作として語られてきた。
Spirogyraにとっては、バンドの個性が最初にはっきり刻まれた一枚でもある。英国フォークの温度感を保ちながら、社会意識のある歌詞や、少し観察的な視線を持ち込んでいる点が特徴だ。伝統曲の再演で知られるフォーク・リヴァイヴァルの流れとは少し距離があり、自作曲で組み立てた点がこのグループの輪郭を明確にしている。
2021年盤について
このフランス盤はLong Hairからの2021年リリースで、ハイグロスのラミネート・ゲートフォールド仕様。4面構成の12インチ折り込みカラーヴィジュアルに歌詞とテキストが付属し、黒い抗静電のプレイン・インナー・スリーヴが入っている。Long Hairはジャーマン・ロックやレア音源、再発盤で知られるレーベルで、こうした再発でも作りが丁寧なことで知られている。
オリジナルの1971年盤と比べると、2021年盤は資料性の高さが目立つ。歌詞やテキストをまとめたインサートが付くことで、曲の内容を追いやすくなっているし、ゲートフォールド仕様で作品のまとまりも見やすい。音源そのものに関しては、作品の核は1971年の録音にあるため、再発盤としては内容を補強しつつ、当時のアルバムを現在の形で手に取りやすくしたものとして扱える。
まとめ
『St. Radigunds』は、英国フォークとプログレの境目にある作品というより、その境目を自然に歩いていたバンドの出発点として面白い。Barbara Gaskinの歌声、Robert Kirbyの関与、BrufordやMattacksの参加といった要素が重なり、1971年という時代の英国音楽の細かな空気をそのまま閉じ込めたような一枚になっている。大きなヒット作ではなくても、曲作り、演奏、言葉の置き方にバンドの個性がはっきり出ているアルバムだ。
トラックリスト
- A1 The Future Won´t Be Long 4:27
- A2 Island 3:39
- A3 Magical Mary 6:20
- A4 Captain's Log 2:00
- A5 At Home In The World 2:40
- A6 Cogwheels Crutches And Cyanide 6:00
- B1 Time Will Tell 5:32
- B2 We Were A Happy Crew 5:29
- B3 Love Is A Funny Thing 2:00
- B4 The Duke Of Beaufoot 8:02