Tangerine Dream - Atem (1973)
Tangerine Dream『Atem』について
Tangerine Dreamの『Atem』は、1973年に発表された4作目のアルバムで、バンドの初期作品の中でも転機にあたる1枚だ。ベルリン・スクールの電子音楽を語るうえで外せない存在でありながら、この時点ではまだ後年のシーケンサー主導のスタイルへ完全には移行していない。長尺の構成、即興性の強い演奏、電子音と打楽器の扱いが前面に出ていて、Tangerine Dreamが実験音楽の文脈から独自の音響世界を形にしていく過程がそのまま刻まれている。
このUK盤はPolydorからのリリースで、レーベル表記は「2383 297」。1973年当時のオリジナル盤であり、後年の再発ではなく初出時の仕様に属する。Tangerine Dreamはドイツのバンドだが、初期から国際流通を意識した展開があり、『Atem』は英国での評価を広げるうえで重要な作品になった。
作品の位置づけ
『Atem』は、Tangerine Dreamの初期4作の流れの中で、前作までのフリー・ロック色やアシッド・フォーク的な気配を保ちながら、より明確に電子音の探究へ踏み込んだ作品として知られる。録音はディーター・ディークスのスタジオで行われ、前2作と同じ制作環境の延長線上にある。そこから生まれる音は、のちの『Phaedra』以降のような整然としたモーグ・シーケンスとは違い、呼吸の間合いを感じさせる展開が中心だ。
アルバム・タイトルの「Atem」はドイツ語で「息」。実際、曲の進行は一定の拍にきっちり収まるというより、音が膨らみ、引き、また現れる流れで進む。電子音、オルガン、パーカッション、ノイズの断片が重なり合い、曲というより音響の層が組み上がっていく感触が強い。Tangerine Dreamの後年を知っていると、この時点で既に空間の使い方がかなり明確なことに気づく。
英国での反応とエピソード
『Atem』が広く知られるきっかけのひとつとしてよく挙げられるのが、BBCのDJジョン・ピールの支持だ。彼がこのアルバムを高く評価したことで、英国での存在感が一気に増した。セールスの大ヒットというより、ラジオを通じた紹介と批評的評価で広がった作品という性格がはっきりしている。Tangerine Dreamの初期作品の中でも、国外、とくに英国での認知を押し上げた1枚として扱われることが多い。
収録曲の中では、やはりタイトル曲「Atem」が中心になる。長い時間をかけて音像が変化していく構成で、後のアンビエントやエレクトロニック・ドローンにも通じる聴き方ができるが、同時に1973年当時の生々しい演奏感も残っている。曲単位でのフックより、アルバム全体の流れで聴かれる性格が強い。
同時代の文脈
1973年のドイツ周辺では、KraftwerkやAsh Ra Tempel、Can、Faustなど、いわゆるクラウトロックの重要作が次々と出ていた時期だ。その中でTangerine Dreamは、即興と電子音の結びつきをより強く押し出し、後のシンセサイザー・ミュージックへ接続する役割を担っていく。『Atem』はその接点にある。まだロックの身体性が残りつつ、すでに音響作品としての輪郭が見えている。
後年のTangerine Dreamが映画音楽やシーケンス主体の作品で知られるようになると、このアルバムは「出発点のひとつ」として見直されることになる。とはいえ、単なる前史ではなく、ここでしか聴けない緊張感がある。整ったメロディや明快な展開を求める作品ではないが、電子音楽がロックの形式を押し広げていた時代の空気が、かなりはっきり残っている。
まとめ
『Atem』は、Tangerine Dreamが実験的な電子音楽から独自の表現へ移っていく途中の作品であり、同時に英国での評価を得るきっかけになった重要盤だ。1973年という時代の中で、電子音、即興、空間処理がどのように結びついていたかを示す記録としても興味深い。初期Tangerine Dreamの流れを追ううえでも、ベルリン・スクールの形成過程をたどるうえでも、外しにくい1枚。
トラックリスト
- A Atem 20:25
- B1 Fauni-Gena 10:43
- B2 Circulation Of Events 5:49
- B3 Wahn 4:31