The Art Of Noise - Who's Afraid Of The Art Of Noise (1984)
The Art Of Noise『Who's Afraid Of The Art Of Noise』
1984年にUKのZTTから登場したThe Art Of Noiseの1作目『Who's Afraid Of The Art Of Noise』は、80年代のエレクトロニック・ミュージックがどこへ向かうかを早い段階で示したアルバムだ。Trevor Horn、J.J. Jeczalik、Anne Dudley、Gary Langan、Paul Morleyという、いずれもスタジオ制作の現場に深く関わる面々が集まり、バンドというよりプロジェクトとして組み上げた作品である。フェアライトCMIを前面に使い、断片化した音、編集、サンプリングを組み合わせて曲を作る手法が、この時点ですでに明確に打ち出されている。
作品の位置づけ
このアルバムは、The Art Of Noiseにとって最初のフル・アルバムであり、同時にZTT初期の看板作でもある。ZTTは1983年に設立されたレーベルで、Trevor Hornの大規模なプロダクションと、Paul Morleyの観念的なパッケージングで知られた。本作もその空気を強くまとっていて、音だけでなく、タイトル表記やジャケット、ライナーノーツの作りまで含めて一つの作品になっている。フロントには「Who's Afraid Of The Art Of Noise」、スパインには「(Who's Afraid Of?) The Art Of Noise!」と記され、表記の揺れそのものがレーベルの美学を反映している。
制作はロンドンで1983年2月28日から1984年4月1日までの間に進められたとされる。収録曲は、シングルとしても知られる「Beat Box」「Close (To The Edit)」「Moments In Love」などを含み、アルバム全体としては実験性とポップ性が同居している。
聴きどころ
中でも「Close (To The Edit)」は、このアルバムを語るうえで外せない。Yesの音源や「Beer Barrel Polka」などを含むサンプリングを組み合わせ、ドラムのフレーズを大胆に切り貼りした構成が印象的で、当時のポップ・ミュージックの作り方を更新するような役割を果たした。UKシングルチャートでは8位まで上昇し、The Art Of Noiseの代表曲として定着している。
「Beat Box」も重要だ。機械的なリズムと断片的な音像が前面に出ていて、のちのエレクトロ、ヒップホップ、ダンス・ミュージックの編集感覚にもつながる手触りがある。「Moments In Love」はその中でも特に長く聴かれてきた曲で、打撃音を抑えた反復と余白の使い方が目立つ。アルバム全体を通してみると、激しい曲と静かな曲の落差が大きく、その振れ幅が作品の輪郭を作っている。
音の作りと時代性
この時代の英国エレクトロニック作品には、Depeche ModeやNew Order、Yazooのようにシンセサイザーを軸にしたバンドが多いが、The Art Of Noiseはその中でもかなり特殊な立ち位置にある。楽器を弾くバンドというより、スタジオ機材そのものを演奏装置として扱う発想が強く、サンプルの選び方や配置に個性が出ている。サウンドは冷たく整理されている一方で、断片のつなぎ方には遊びがあり、理屈だけでは終わらない。
ジャケット写真は、イタリア・ジェノヴァのスタリエーノ墓地にある彫像を撮影したものとされ、視覚面でも「人間の顔を持たない音楽」という当時のコンセプトに沿っている。実際、初期The Art Of Noiseは匿名性の強いプロジェクトとして見られていたが、このアルバムでは音そのものが最も雄弁に存在感を示している。
オリジナル盤としての特徴
1984年のUKオリジナル盤は、カスタム印刷のインナー・スリーブ付きで発行され、盤面のクレジットや曲順が重要な情報になっている。バック・スリーブやインナー・スリーブでは曲順表記に誤りがあり、正しいトラックリストはラベルにのみ記載されている。このあたりもZTTらしい細部へのこだわりと、同時に少し混乱を含んだパッケージングである。ランアウトはスタンプ刻印。
総括
『Who's Afraid Of The Art Of Noise』は、80年代半ばのシンセポップや実験音楽をつなぐ位置にあるアルバムだ。ヒット曲の存在で入口は広いが、聴き進めるほどに、単なるシングル集ではなく、編集とサンプリングの思想をアルバム単位で組み立てた作品だと分かる。The Art Of Noiseの出発点としても、ZTT初期の象徴としても、当時の英国エレクトロニック・ミュージックの空気を強く映した一枚である。
トラックリスト
- A Time To Hear
- A1 A Time For Fear (Who's Afraid) 4:43
- A2 Beat Box (Diversion One) 8:33
- A3 Snapshot 1:00
- A4 Close (To The Edit) 5:37
- Who's Listening
- B1 Who's Afraid (Of The Art Of Noise) 4:22
- B2 Moments In Love 10:17
- B3 Memento 2:14
- B4 How To Kill 2:44
- B5 Realization 1:41