Contortions - Buy (1979)
Contortions『Buy』──ノー・ウェイヴをアルバムの形に押し出した1979年作
Contortionsの『Buy』は、1978年の『No New York』でノー・ウェイヴ・シーンの中心に名を刻んだ彼らが、1979年に残した正式なアルバム・デビュー作である。バンド名義ながら、実質的にはJames ChanceことJames Siegfriedの存在感が強く、以後の表記でも彼の名前が前面に出ていく時期の作品でもある。録音された音は、パンクの衝動、フリー・ジャズの乱れた推進力、ファンクの反復を、整った形にせずぶつけたもの。ニューヨークの短命だったノー・ウェイヴの空気を、そのまま長編にしたような一枚である。
Contortionsは1977年結成。ボーカルとサックスを担当するJames Chanceを中心に、Pat Place、Jody Harris、Adele Bertei、George Scott、Don Christensenらが参加した。ライブでは観客に喧嘩を売るような振る舞いまで含めて、当時のノー・ウェイヴらしい緊張感を体現していたことで知られる。本作『Buy』は、そうしたライブの過激さをそのまま閉じ込めたというより、よりタイトで、より機能的な形にまとめた記録として聴こえる。『No New York』での断片的な印象よりも、曲としての輪郭が少しはっきりしているのがポイントだ。
アルバムの位置づけ
この時期、James ChanceはContortionsとは別に、James White & The Blacks名義でファンク/ディスコ寄りの『Off White』も発表している。つまり1979年は、ひとりの人物がまったく違う方向の2枚を並行して出した年でもある。Contortions側の『Buy』は、より尖った側に置かれた作品で、同時代のディスコやニュー・ウェイヴの流れに接続しつつも、安易に滑らかなグルーヴへは寄らない。むしろリズムの引っかかりや、音の隙間の不穏さが前に出る。
参加メンバーの変動もこの作品の背景にある。制作の途中でAdele BerteiとGeorge Scottが離脱したことが知られており、バンドは人員を入れ替えながら録音を進めていった。結果として、『Buy』は初期Contortionsの一体感と、そこから少しずつ形を変えていく過程の両方を感じさせる内容になっている。
サウンドと聴きどころ
このアルバムの中心にあるのは、James Chanceの鋭い声とサックス、そしてギターの刺すような配置である。演奏は乱暴に見えて、実際にはかなり計算された間合いがある。ドラムとベースは単純なロックの直進ではなく、ファンクのループ感を持ちながらも落ち着かない。そこにサックスが割り込み、ボーカルが命令口調で飛び込む。結果として、曲が前へ進むというより、同じ場所を強く踏みつけながら熱を上げていくような感触になる。
代表曲として真っ先に挙がるのは、アルバム・タイトルにもなった「Buy」だろう。レーベル表記では「Buy The Contortions」とされており、作品の顔として機能している。James Chanceの作家性が、バンド名よりも前に出てくる時期を示す曲でもある。なお、バックカバーではJames White作曲、レーベルではJames Chance作詞作曲と記されており、クレジットの扱いにもこの時代特有の揺れが見える。
同時代の文脈
『Buy』を聴くと、同時代のNo Wave周辺の作品群、たとえばMarsやDNAのような、反復と破片で組み立てる音楽が思い浮かぶ。ただしContortionsは、その中でもファンクの身体性がはっきりしている。完全な抽象音楽には行かず、踊れる要素を残したまま壊していく感じがある。だからこそ、後年のアート・パンクやオルタナティヴ・ファンクの系譜の中でも、James Chanceの名前がしばしば参照されるのだろう。
James Chance本人は過激なステージングでも語られる人物で、観客との衝突が伝説化している。その攻撃性は『Buy』の音にも残っていて、ただ荒れているのではなく、演奏の各パートが互いを押し返しながら成立している。Robert Christgauがこの作品について、ボーカルを必要とする制約の中に小さな誠実さとユーモアがある、と評したのも、このバランス感に触れた言葉として読める。
1979年という年の意味
1979年の『Buy』は、Contortionsにとって最初の本格的なアルバムであり、ノー・ウェイヴの熱がまだ残っていた時期の記録でもある。翌1980年にはオリジナル編成が解体していくため、この作品は初期メンバーの緊張関係が比較的まとまった形で残った重要な一枚として見える。ZE Recordsからのリリースという点でも、当時のニューヨークのディスコ、エレクトロ、No Waveを横断していたレーベルの性格がそのまま反映されている。
盤としては1979年のUS盤がオリジナルで、後年の再発盤とは別物として扱われる。オリジナル期の空気を伝える一枚として、『Buy』はContortionsの出発点を示すだけでなく、James Chanceという人物がロック、ファンク、前衛の境界をどう踏み越えたかを、そのまま記録した作品になっている。
トラックリスト
- A1 Design To Kill 2:44
- A2 My Infatuation 2:17
- A3 I Don't Want To Be Happy 3:20
- A4 Anesthetic 3:50
- A5 Contort Yourself 4:25
- B1 Throw Me Away 2:40
- B2 Roving Eye 3:06
- B3 Twice Removed 3:02
- B4 Bedroom Athlete 4:13