Tyler, The Creator - Igor (2019)
Tyler, The Creator 2019

Tyler, The Creator - Igor (2019)

Hip Hop Funk / Soul Contemporary R&B Neo Soul

Tyler, The Creator『Igor』レビュー

Tyler, The Creatorの『Igor』は、2019年に発表された5作目のスタジオ・アルバムだ。Hip Hopを軸にしながら、Contemporary R&BやNeo Soulの感触を強く取り込んだ作品で、Tylerのキャリアの中でも大きく印象を変えた一枚として知られている。ラップのアルバムという枠に収まりきらない構成で、歌、語り、音の切り替えが細かくつながっていく流れが特徴的だ。全体を通して、ひとつの物語を追うように聴かせる設計になっている。

作品の位置づけ

本作は、2017年から2019年にかけて制作され、カリフォルニアを中心に、イタリアのコモ湖やアトランタでのセッションも交えて完成した。Tylerにとっては、単なるラップ作品というより、サウンド面と構成面の両方で大きく踏み込んだアルバムになっている。前作までの攻撃性や歪んだユーモアを残しつつも、ここではメロディやコード感、音の抜き差しが前面に出る。ソウルやR&Bの文脈に近い質感が、アルバム全体の骨格を作っている。

物語は、既に恋人がいる男性にTylerが恋をする、という三角関係を軸に進む。曲間にはコメディアンのJerrod Carmichaelによるナレーションが入り、場面転換の役割を果たしている。アルバムを通して聴くと、楽曲単体の集合体というより、ひとつの感情の推移をなぞる構成に見えてくる。

代表曲と制作のエピソード

リード・シングルの「Earfquake」は、本作を象徴する楽曲として広く知られている。もともとはJustin BieberやRihannaに提供するつもりで書かれた曲だったが、最終的に自身のアルバムへ収録されたという経緯がある。耳に残るコード進行と、感情の揺れをそのまま音にしたようなボーカル処理が目立つ曲で、アルバムの方向性を端的に示している。

ゲスト参加の扱いも本作らしい。Kanye West、Solange、Playboi Cartiらが参加しているが、クレジット表記は従来の「feat.」ではなく「performer」で統一されている。こうした表記の細部にも、作品全体の見せ方へのこだわりが出ている。

受賞と反響

『Igor』は発売初週にBillboard 200で初の首位を獲得した。翌2020年のグラミー賞ではBest Rap Albumを受賞し、Tylerにとって初のグラミー獲得作となった。ただし、内容はラップ一辺倒ではなく、むしろネオソウルやR&Bの比重が高い。そのため、受賞スピーチでTylerがジャンル分けの扱いに複雑な思いを示したことも話題になった。ラップとそれ以外の境界をまたぐ作品として受け止められた背景がある。

同時代の文脈で見ると、2010年代後半のヒップホップがサウンドの拡張を続けていた流れの中にある。ラップの言葉数や攻撃性だけでなく、歌心、和声、レイヤーの厚みで聴かせる作品が増える中で、『Igor』はその流れを強く印象づけた一枚になっている。Tyler自身がOdd Future以降に積み重ねてきた作家性、さらにGolf WangやCamp Flog Gnaw Carnivalといった周辺活動も含めて、本人の美学がそのまま作品に反映されたアルバムだ。

今回のUS盤について

このUS盤は2019年リリースのオリジナル期の盤で、Columbiaから出ている。限定盤としてgolfwang.comで販売され、オパーク・ミントカラーのヴァイナル仕様。ランダムカラーのポスターとステッカーが付属し、フルカラーのゲートフォールド・スリーブに収められている。プレスはMRP、プレーティングはGZで行われた。ランアウトには細かな刻印の差もあり、コレクター向けの仕様としても目を引く。

『Igor』は、Tyler, The Creatorがラッパーという肩書きだけでは捉えにくいことを、作品そのものの形で示したアルバムだ。ヒップホップを軸にしながら、R&Bやソウルの要素を整理して組み上げた構成、そして恋愛感情の不安定さを追う物語性。2019年の時点でここまで一体感のあるアルバムを作り切ったことが、この作品の大きな特徴になっている。

トラックリスト

  1. A1 Igor's Theme 3:21
  2. A2 Earfquake 3:10
  3. A3 I Think 3:32
  4. A4 Boyfriend 4:01
  5. A5 Running Out Of Time 2:57
  6. A6 New Magic Wand 3:15
  7. B1 A Boy Is A Gun* 3:30
  8. B2 Puppet 2:59
  9. B3 What's Good 3:26
  10. B4 Gone, Gone / Thank You 6:15
  11. B5 I Don't Love You Anymore 2:41
  12. B6 Are We Still Friends? 4:25

動画プレイリスト

公開: 2026年9月
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