Van Morrison - Hard Nose The Highway (1973)
Van Morrison『Hard Nose the Highway』──1973年、カリフォルニアで固めた7作目
Van Morrisonの『Hard Nose the Highway』は、1973年にWarner Bros. Recordsから出た7作目のスタジオ・アルバムである。前作までの流れを引き継ぎながらも、録音の中心を自前のCaledonia Studioに置き、本人がプロデュースも担ったことで、制作面の主導権がよりはっきり見える1枚になっている。Belfast出身のシンガー/ソングライターとしてソウル、ブルース、フォーク、ジャズの要素を吸収してきたVan Morrisonだが、この作品ではその要素が比較的はっきり分かれた形で並ぶ。
USオリジナル盤はWarner Bros. RecordsのBS 2712。1973年当時のWarner Bros.は、緑のラベルからBurbankのパームツリー・ラベルへ移行する時期で、この作品のUS初出盤は1973年のリリースらしい時期感をそのまま残す。ゲートフォールド仕様で、歌詞とクレジットは見開き内側右側に印刷されている。ライナーノーツや盤面表記からも、制作の中心がCaledonia ProductionsとCaledonia Studioにあったことが読み取れる。
作品の位置づけ
このアルバムは、Van Morrisonが自分の作曲だけでなく、選曲面でも少し視野を広げた作品として扱われる。1967年のデビュー作以来となる、自作以外の曲を含むアルバムであり、Joe Raposoの「Bein' Green」を「Green」として取り上げている点が目を引く。もう1曲のカバーは、伝承曲「Purple Heather」。オリジナル曲と並べることで、ソングライターとしての輪郭を逆に際立たせる構成になっている。
録音は1972年8月から秋にかけて行われ、セッションではかなり多くの曲が録られたとされるが、LP1枚に収められたのは8曲のみ。収録曲数は少ない一方で、1曲ごとの長さは確保されており、特にB面の「Autumn Song」は10分を超える。曲数で詰め込むより、展開の余白を残す作りである。
音の印象と編成
実際に聴くと、まず耳に入るのは音の層の厚さである。Jack Schroerのサックス、Jef Labesのピアノを軸に、ストリングスやホーンが加わり、曲によっては合唱まで入る。冒頭の「Snow In San Anselmo」ではOakland Symphony Chamber Chorusが参加し、オープニングから小編成のバンド作品というより、室内楽的な広がりを持ったサウンドになっている。
ジャッキー・デシャノンが2曲でバック・ボーカルを務めているのも、アルバムの質感を決める要素だ。ソウル寄りの歌唱と、ブルースやフォークの骨格が同じ盤の中で並ぶため、曲ごとの温度差がはっきりしている。タイトル曲「Hard Nose the Highway」や「Autumn Song」では、歌のフレーズが前に出る場面と、アレンジが広がる場面の切り替えが分かりやすい。
代表曲と収録曲
A2の「Warm Love」はシングルとしても出ており、このアルバムの中では比較的耳なじみのある曲である。アルバム全体の中では、いわゆるヒット曲だけを押し出す作りではないが、「Warm Love」は軽やかな推進力を持ち、作品の入り口として機能している。対して「Autumn Song」は長尺の中で気分の変化を積み重ねるタイプで、Van Morrisonがこの時期に好んだ流れのある楽曲づくりが見える。
「Bein' Green」は、もともと広く知られた曲を、Van Morrisonの声とバンドの質感で塗り替えたような位置にある。原曲の親しみやすさとは少し違い、ここでは歌のニュアンスそのものが前面に出る。伝承曲の「Purple Heather」も同様に、既存の素材をそのままなぞるのではなく、アルバム全体の空気に合わせて置かれている。
同時代の文脈
1973年のVan Morrisonは、アイルランド的なルーツ感覚と、アメリカ南部由来のソウル/ブルースを行き来する位置にいた。同時代の比較でいえば、単純なロック・バンドの枠より、歌と演奏の間合いを重視するタイプで、The BandやDr. Johnのように土地の気配を音に残すアーティストとも並べて語られやすい。だが『Hard Nose the Highway』は、その中でも録音環境を自分の拠点に寄せたことで、より私的なスケール感が出ている。
評価は当時から分かれた。Billboard 200で27位、全英アルバムチャートで22位を記録しており、商業面では一定の存在感を持った一方、批評の側では賛否が出た。後年の再評価でも、1970年代のMorrison作品の中で位置づけが揺れる1枚として扱われている。とはいえ、ソウル、ブルース、フォークをひとつの場に置き、曲ごとに温度差を持たせた構成は、この時期のVan Morrisonらしさがよく出ている。
US初出盤について
このUS盤は1973年のWarner Bros.初出仕様で、ラベルは当時の移行期にあたるデザインの流れに属する。見開きジャケット、歌詞掲載、そしてCaledonia Studio録音という表記が揃い、作品の制作背景が盤そのものからも伝わる。録音年代とリリース年代が一致する初出盤として、この時期のVan Morrisonをそのまま封じ込めた一枚である。
『Hard Nose the Highway』は、派手な一発で押すアルバムではないが、長尺曲、カバー曲、合唱やホーンを含む編成、そして本人主導の制作がひとまとまりになった作品である。Van Morrisonの1970年代前半を追ううえで、外せない位置に置かれる1枚だ。
トラックリスト
- A1 Snow In San Anselmo 4:34
- A2 Warm Love 3:22
- A3 Hard Nose The Highway 5:14
- A4 Wild Children 4:20
- A5 The Great Deception 4:51
- B1 Green 4:20
- B2 Autumn Song 10:37
- B3 Purple Heather 5:42