Van Morrison - Astral Weeks (1968)
Van Morrison『Astral Weeks』――1968年のニューヨークで生まれた、静かな転換点
Van Morrisonの『Astral Weeks』は、1968年にUS盤としてWarner Bros.-Seven Arts Recordsから発売された2作目のスタジオ・アルバムである。前作までのR&B色の強い流れから大きく方向を変え、フォーク、ジャズ、室内楽的なアンサンブルが混ざり合う内容になっている。ロックのフォーマットに収まりながら、演奏の呼吸や余白を前面に出した作品で、Van Morrisonの作品群の中でも特に独特な位置を占める一枚だ。
録音の背景と作品の輪郭
このアルバムは1968年9月から10月にかけてニューヨークのCentury Sound Studiosで録音された。セッションには、ベーシストのRichard Davisを中心に、ギタリストのJay Berlinerをはじめとするジャズ系の腕利きが集められた。事前の綿密なリハーサルや譜面に頼らず、その場でコード進行を受け取りながら演奏を組み立てていったという制作経緯が知られている。結果として、Van Morrisonの曲はフォーク寄りの骨格を保ちながらも、弦楽器やリズムの動きに自由度の高い揺れが生まれている。
収録曲は、流れとして一つの長い組曲のように聴こえる。Side Aが「Part 1」、Side Bが「Part 2」と表記されているのも、このアルバムが曲単位のヒットを狙うというより、全体のまとまりで聴かれることを前提にしていたことを示している。実際、発売当初は大きなシングル・ヒットに支えられた作品ではなく、商業的には控えめな出発だった。
US初回盤の仕様
このUS盤はWarner Bros.-Seven Artsの緑色ラベルに、箱入りの「W7」ロゴが入っている。ラベル、バック・スリーブ、スパインには最初のカタログ番号WS 1768が記載され、フロント・スリーブには別の番号も見られる。1960年代末のWarner Bros.-Seven Arts期の盤らしい仕様で、後年のWarner Bros.名義の再発盤とは見た目の印象が異なる。W7ロゴはこの時代の短い移行期を示す記号でもある。
作品の中身と聴きどころ
『Astral Weeks』でまず目立つのは、Van Morrisonの声の置き方だ。歌い上げるというより、フレーズの端を少しずつずらしながら、曲の流れに言葉を差し込んでいくような歌唱が続く。伴奏はそれを受けて、ベースが旋律的に動き、アコースティック・ギターやフルート、チェロが前景と背景を行き来する。ロック・バンドの厚みよりも、各楽器の線が見える作り。
タイトル曲「Astral Weeks」は、アルバム全体の感触を代表する一曲で、後に絵画から着想を得たとされる。曲の構造は明快だが、展開の仕方はかなり自由で、歌詞も場所や時間を素描するように進む。続く「Sweet Thing」や「The Way Young Lovers Do」では、ジャズ由来の流れとフォークの親密さが同居していて、Van Morrisonの初期ソロ作品の中でも特にこのアルバムでしか聞けない組み合わせになっている。
当時の文脈と後年の評価
1968年という時期に目を向けると、ロックはサイケデリック、ブルース・ロック、フォーク・ロックなどが拡張していたが、『Astral Weeks』はどの流れにも完全には収まらない。ジャズの即興感を持ちながら、歌の中心はあくまでVan Morrisonの内省的な語り口にある。この点で、同時代の大型ロック作品とは少し違う場所に立っている。
発売時の反応は限定的だったが、のちに批評家から高く評価されるようになった。Rolling Stoneの「500 Greatest Albums」で上位に入ったことでも知られ、後年のロック史観の中では重要盤として扱われている。Bruce Springsteenが本作について、自分にとって重要な一枚であり、美や神聖さの感覚を与えたと語っているのも有名な話だ。Springsteenの初期作品、とりわけ「New York Serenade」には、その影響がうかがえる。
Van Morrisonのキャリアの中で
Van MorrisonはThemでの活動を経てソロに転じた人物で、『Astral Weeks』はその初期ソロ期の中核にある。Belfast出身のシンガー/ソングライターとして、のちにロックの殿堂入りも果たすが、このアルバムではまだ大規模な成功作というより、表現の方向を決定づける試行が前面に出ている。派手な展開よりも、声、言葉、演奏の間合いが作品を支えている点が印象に残る。
結果として『Astral Weeks』は、Van Morrisonの代表作であると同時に、1960年代末のロックがどこまで柔らかく、どこまで自由に形を変えられるかを示した記録でもある。曲ごとの起伏より、アルバム全体の流れで聴くと、その輪郭がよりはっきりしてくる作品だ。
トラックリスト
- Part 1: In The Beginning
- A1 Astral Weeks 7:00
- A2 Beside You 5:10
- A3 Sweet Thing 4:10
- A4 Cyprus Avenue 6:50
- Part 2: Afterwards
- B1 Young Lovers Do 3:10
- B2 Madame George 9:25
- B3 Ballerina 7:00
- B4 Slim Slow Slider 3:20