Vinyl Record Reviews
Rushは、1968年にカナダ・トロントで結成されたロック・バンドだ。ジャンルはロック、スタイルはプログレッシブ・ロックに分類されることが多い。長くはGeddy Lee、Alex Lifeson、Neil Peartの3人編成で活動し、カナダを代表するバンドのひとつとして知られている。
バンドは1968年8月、トロントのウィロウデール地区でAlex Lifesonを中心に始動した。当初のベース担当はJeff Jonesだったが、すぐにGeddy Leeが加入する。ドラムはJohn Rutseyが務めていたが、1974年にNeil Peartが正式加入し、Lee、Lifeson、Peartの3人編成が固まった。
この編成は、Rushの音楽性を決定づけることになる。ベースとボーカルを兼ねるGeddy Lee、ギターのAlex Lifeson、そして作詞も担うNeil Peartという役割分担が、演奏面でも制作面でもはっきりしていた。
1975年の3作目『Caress of Steel』は商業的には振るわず、レーベルからはより聴きやすい作品を求められた。それに対してRushは、20分に及ぶ組曲仕立ての表題曲を含むSF的コンセプトアルバム『2112』(1976年)を制作する。ここでバンドは、短い楽曲に寄せるのではなく、長尺の構成と物語性を前面に出した。
『2112』は結果的にRush初の大きな商業的成功作となり、その後のキャリアの方向性を決めた作品として扱われることが多い。
1981年の『Moving Pictures』は、Rushにとって大きなヒット作だ。カナダでは初の1位を記録し、アメリカとイギリスでもトップ3入りした。バンドの代表作として挙げられることが多く、ここでの成功によってRushの名前はより広く知られるようになった。
この時期のRushは、長尺の楽曲だけでなく、演奏の密度を保ちながらコンパクトにまとめた楽曲も並べていた。プログレッシブ・ロックの文脈にありながら、ラジオ向けの楽曲も持っていた点が特徴だ。
Rushの音楽は、技術面の情報量が多い。Neil Peartのドラミングは手数が多く、曲ごとに細かなリズム変化が入る。Geddy Leeはハイトーンのボーカルを取りつつベースも担当し、リズムの土台を支える。Alex Lifesonのギターは、リフ中心の曲でもコードワークや音色の切り替えが目立つ。
歌詞面では、Neil Peartが文学的なテーマやSF的な題材を扱うことが多かった。『2112』のようなコンセプト作品から、後年の楽曲まで、構成の長さと内容の組み立てがRushの大きな軸になっている。
RushはR40ツアー後にツアー活動を退いた。Neil Peartが健康上の理由で引退を表明したことが背景にある。2018年1月にはAlex Lifesonが、Rushの活動は終わったという趣旨の発言をしている。
その後、2020年1月7日にNeil Peartが脳腫瘍のため67歳で亡くなったことが公表された。3人編成の中心人物のひとりを失ったことで、バンドの歴史は一区切りを迎えた形になる。
ただし、2025年10月6日には生存メンバーのAlex LifesonとGeddy Leeが、2026年の再結成ツアーを発表した。ドラムはAnika NillesがPeartの代役を務めると案内されている。
Rushは2013年にロックンロール・ホール・オブ・フェイム入りを果たしている。演奏技術の高さ、複雑な曲構成、長年にわたる3人編成の継続によって、プログレッシブ・ロックの代表的なバンドとして扱われてきた。
ディスコグラフィー全体を見ると、初期のハードなロックから、長尺の組曲、シンセサイザーを取り入れた時期、再びギター主体のサウンドへ戻る時期まで、作風の変化がはっきりしている。その変化の中でも、演奏の精度と構成の複雑さは一貫していた。