Aztec Camera - High Land, Hard Rain (1983)
Aztec Camera『High Land, Hard Rain』――10代のロディ・フレイムが鳴らしたデビュー作
Aztec Cameraの『High Land, Hard Rain』は、1983年にUKのRough Tradeから出たデビュー・アルバムだ。スコットランドのイースト・キルブライドでロディ・フレイムが1980年に始めたバンドが、10代のうちにまとめ上げた作品である。ニュー・ウェーヴやインディ・ポップの流れの中に置かれながら、前面に出るのはエフェクトで塗り込めた音ではなく、アコースティック・ギターの細かな響き。いわゆるネオアコの代表作として語られることが多いが、実際にはフォーク・ロックやソフィスティ・ポップの要素もはっきり見える、かなり輪郭のくっきりしたアルバムだ。
録音は1982年9月から1983年1月にかけて、イングランド南部イーストボーンのICCスタジオで行われた。中心人物はロディ・フレイムで、プロデュースにはジョン・ブランドとキーボードのバーニー・クラークが関わっている。メンバーはフレイムのボーカル、ギター、ハーモニカに、クラークのピアノとオルガン、キャンベル・オーウェンズのベース、デイヴ・ラフィのドラムスという編成。派手な編成ではないが、そのぶん曲の骨格が見えやすい。
アコースティック・ギターが主役の1983年
この作品でまず目立つのは、アコースティック・ギターの扱いだ。当時のUKポップ/ロックではシンセや処理の強い音が主流になっていたが、『High Land, Hard Rain』はそこから少し距離を取っている。アルペジオの動き、コードの鳴り、ハーモニカやオルガンの差し込み方が前に出ていて、曲の流れは軽快でも、演奏の情報量は多い。音数を増やして押すのではなく、細部で持たせる作り。
タイトル曲をはじめ、曲の輪郭がはっきりしているのも特徴だ。メロディは耳に残りやすいが、甘さだけに寄らない。フレイムの歌い方は感情を大きく振り回すタイプではなく、一定の距離を保ちながら言葉を置いていく印象がある。そのため、曲が明るく進んでも軽薄にはならない。
シングルで広がった代表曲
アルバムに先立つ「Pillar To Post」、そして「Oblivious」「Walk Out To Winter」がこの時期の重要な曲だ。なかでも「Oblivious」は代表曲として知られ、最初のリリース時は全英47位だったが、同年10月の再発で全英18位まで上昇した。インディ・チャートでは1位を記録している。アルバム全体の印象を持ち込んだまま、曲単位でも広く届いた例だ。
「Walk Out To Winter」も含め、これらのシングルはアルバムの方向性をかなりわかりやすく示している。ギターの細かな刻みと、ポップとしての押しの強さ。その両方が表に出ているため、後年のネオアコ再評価の文脈でも外しにくい存在になっている。
同時代のUKインディーの中で
1983年のUKインディーは、粗いギター・バンドだけでもなく、ポストパンクの硬さだけでもない広がりを見せていた。Aztec Cameraはその中で、弾き語りの要素とバンド・サウンドを接続する側にいた。Rough Tradeからの発表という点も重要で、同レーベルが持っていた独立系の流通感覚と、このアルバムの身軽さはよく噛み合っている。
同時代のアーティストで並べて語られることは多くても、音の作りはかなり整理されている。音の隙間を残しつつ、メロディとコード進行で引っ張る作りは、後のインディ・ポップやギターポップに通じる部分がある。影響を受けた側の名前をひとつに絞るのは難しいが、この作品がネオアコの名盤として扱われ続けてきた事実自体が、その位置づけを示している。
評価が落ちないデビュー作
発売当時から評価は高く、後年もその印象は大きく変わっていない。全英アルバム・チャートでは最高22位、アメリカではSireから出てBillboard 200で129位を記録した。英国発のインディー・デビュー作としては十分に広い到達点だ。AllMusic、Pitchfork、PopMattersなどでも高い評価が与えられている。
また、2014年には30周年記念盤も出ており、ライヴ・セッションや別ミックスが加わった。オリジナル盤の素のまとまりを確認する意味でも、後年の補遺で曲の輪郭がさらに見える構成だったはずだ。とはいえ、まずこの1983年盤で耳に入るのは、若いバンドが持っていた演奏の精度と、ロディ・フレイムの作曲の強さである。
盤の仕様について
今回のUKオリジナル盤は、セミ・グロッシーのピクチャー・スリーブに、歌詞を収めた光沢のある印刷カード・インナーが付く仕様だ。スリーブ表裏の文字はすべて小文字、インナーでは曲名は大文字、クレジットとカタログ番号は小文字、歌詞はセンテンス・ケースで記載されている。見た目の情報量は多くないが、作品の端正さに合った作りになっている。
『High Land, Hard Rain』は、Aztec Cameraの出発点であり、同時に1980年代前半のUKインディーの中でかなり明確な輪郭を持つ一枚だ。アコースティック・ギター中心の編成、シングルでの広がり、そして10代の作家が書いたとは思えないほど整理された曲作り。その組み合わせが、いまもこのアルバムを参照点として残している。
トラックリスト
- A1 Oblivious 3:05
- A2 The Boy Wonders 3:10
- A3 Walk Out To Winter 3:20
- A4 The Bugle Sounds Again 2:50
- A5 We Could Send Letters 5:40
- B1 Pillar To Post 3:55
- B2 Release 3:38
- B3 Lost Outside The Tunnel 3:35
- B4 Back On Board 4:50
- B5 Down The Dip 2:10